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連載ラノベ 夢ごこち(28)

 障子に肩幅の広い男の人の影が現れた時、私は、布団の中で跳ね起きそうになった。影に一瞬、遅れて、山が風にあおられる音がして家じゅうが震えた。それでやっと、突然現れた影は、ちぎられそうになびいている木だとわかった。

 渡り廊下から見上げる空が暗い。しばらく見ていると目が慣れて、所々に、雲の模様があった。でも、山は真っ暗だ。かえって、雲が出ている空のほうが明るい。

 あそこ、何か動いた。なんだろう。

 欄干に乗り出して、体をひねって見上げた。月がある所だけ雲が透けている。その下で、鳥が群れている。飛び去るわけでもなく、月の下に集まっているみたい。さっき見えたのは、あそこへ向かう鳥の影かも。

 辺りは、もの音ひとつしない。この家は、山の中だ。ふもとの家もみんな、明かりを消している。気配を消して、鳥に見つからないようにひっそりとしているんだ。風もない。

 嵐が来る。

 また一羽、下界から月へ向かって飛んでいった。羽ばたく様子が見えた。けど、暗雲に紛れて、見えなくなってしまった。

 誰かが鳥を集めている。月明かりでぼんやりした雲の向こう。誰かがいる。怪鳥が呼び寄せている。世を乱そうとしているんだ。

 体をひねって首いっぱいに見上げたら、いきなり、男の人と目が合った。

 屋根の上にいる。だれ。私が小さかった時、いきなり障子に映った人なの。それとも、おまじないをする人。金比羅さんの社にこもって、怪鳥を呼び寄せる人なの。

 屋根の上にいた男の人と目が合って、呼吸が止まったまま、そんなことまで脳裏に走った。けど、よく見たら、男の人じゃなくて、屋根についている魔除けのお面だった。でも、鬼瓦はこっちを向いていない。空を見ている。さっきは確かに、誰かと目が合った。やっぱり、誰かがいた。

 胸に手を当て、息を整えた。

 辺りは、もの音ひとつしない。風もない。母屋の軒下は真っ暗だ。廊下のすぐ隣まで暗闇が広がっている。もうすぐ、この家も闇に飲み込まれてしまう。私は、今夜、闇の中で過ごすんだ。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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