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パイロット不足に悲鳴 航空業界2030年問題への右往左往

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提供:週刊実話

 日本の航空業界に「2030年問題」という魔物が襲いかかろうとしている。それを避けられるかどうか、業界にとっては、ここ1、2年が正念場だという。
 「バブル時代に大量採用された50代前後のパイロットがいっきに退職時期を迎えるのが'30年。このままいけばパイロット不足になるのは必至で、便が飛ばせなくなる上に、航空会社の経営を直撃しかねない状況なのです」(航空アナリスト)

 国はグローバル化の促進などで、'22年時点における日本全体のパイロットの必要数を7000人前後と弾いている。現在の総数は約5700人。4年後を見据えても約1000人のパイロットを増やさなければならない。
 「単純に1000人増やしたとしても、毎年退職パイロットが100人以上出るとされ、'22年までには500人がいなくなる。つまり、それまでに1500人を確保しなければならず、'30年以前に業界が凍てついてしまう恐れがあるのです」(同)

 この年間平均300人ずつ5年間補充しなければならない事態が、いかに大変なことかは、現実に照らせば明白だ。
 「現在、JALなどの大手航空会社の自社養成のパイロットは年間50人。これに独立行政法人の航空大学校の卒業者が80人前後。ほか、私立大学などパイロット養成コースが併せて80人前後。ここに民間の操縦士養成学校卒などを加えると計230人。年間約60人が不足する計算になる。頭の痛い問題です」(航空会社関係者)

 これほどのパイロット不足は、リーマンショック直後の2008年前後にも一度起きている。しかし、その時は主に外国人パイロットの補充によって何とかしのいだ。だが、今後はこの策が使えない可能性が大という。
 「パイロット不足が日本だけの問題ではなくなっているからです。今まで人材の補充元だった航空業界の先進国であるアメリカも、リーマンショックからパイロットのなり手が極端に減り、自身が不足に悩んでいるのです」(専門誌記者)

 アメリカでは'09年、2つの大きな飛行機事故が起きている。1つは、乗客乗員が無事だったことから「ハドソン川の奇跡」とも呼ばれた、USエアウェイズ1549便不時着水事故。もう1つは、コルガン・エア3407便がパイロットの未熟な操縦と過重労働が重なり、ニューヨーク州の住宅地に墜落した事故で、この時は乗客乗務員など49名、民家の住人1名が死亡している。
 「これらの事故を受け、アメリカでは法改正が行われ、副操縦士や機長の資格が厳格化された。結果、パイロット不足に陥り、減便も相次いだのです」(同)

 また、アメリカで新人パイロットが減る理由に、安価な給料も挙げられる。
 「やはりリーマンショックを境に、地域航空会社などの新人パイロットは軒並み普通のサラリーマンと同じ待遇になっている。資格取得に数千万円かかるのは日本もアメリカも同じで、当然、元が取れない収入であれば志望者は減る」(同)

 さらに日本と同様、アメリカでも現役パイロットが大量退職しており、主要航空会社では'21年から20年間で約4万5000人が引退する見込みなのだ。
 「民間の穴埋めをしてきた米軍出身のパイロットも不足している状況。軍そのもののパイロットが1500人から2000人不足しており、逆に民間に移ったパイロットを軍に戻そうという動きまで起きている。このような問題は世界中で起きているのです」(前出・航空会社関係者)

 そのため、日本が外国人のパイロットを獲得することはますます困難になるのだが、これに拍車をかけているのが、アジア系の航空会社の動きだ。
 「中国などでは高額年俸で日本人パイロットを引き抜く動きが出ている。日本の主要航空のパイロットの平均年収は1800万円前後ですが、その倍以上を提示して呼び込みをかけているとの情報もあります。実際に移籍する者も出てきており、非常に深刻です」(前出・専門誌記者)

 こうした状況に対策はあるのか。前出の航空アナリストは、こう話す。
 「'15年には国交省の指示で、乗務時間を2割減らした80時間にし、厳しい身体検査の義務づけを条件に、年齢制限を64歳から67歳に引き上げたが、それもすぐに限界が来る。そこで主要航空会社は、民間養成機関の学生に奨学金制度をスタートさせるなどの対策を取り始めています。国も自衛隊パイロットから民間パイロットになる際の規制緩和方策も取っていますが、抜本策にはほど遠い。さらにパイロットになるためのハードルを下げるのが手っ取り早いが、それで安全性が脅かされれば本末転倒。悩ましいところです」

 どう乗り越えるのか。

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