「おばあちゃん、美雪お姉ちゃん、来た」
おばあちゃんは向こうの部屋にいるみたい。
それに、久しぶりに会ったのに、健太君が、私のことをちゃんと「美雪お姉ちゃん」って呼んでくれた。
立ち上がってふすまの前に行くと、健太君の顔は、まだ私のお腹くらいだった。並ぶと、健太君は、ますます小さい。
健太君のつむじが真っ白だ。それに、髪の毛もさらさら。子どもの髪の毛って、どうしてこうも、きれいなのだろう。
男の子は、もう少し大きくなると、へんにすれて生意気になってしまう。中学にあがると、顔じゅうに、にきびができる。
でも、健太君のうなじは、しわ一つなくて、光っている。
健太君が振り返って、私を見上げてきた。健太君が、笑った。真っ黒な瞳に吸い込まれそう。
健太君の頭越しに、おばあちゃんの部屋をのぞいた。おばあちゃんは着替えの最中だった。
おばあちゃんが、私の方を振り向いてくれた。
「美雪かい、わざわざ、ご苦労さん」
目を細めて喜ぶおばあちゃんの顔は、しわが目立つようになっている。
おばあちゃんに声をかけた。
「おばあちゃん、来たよ」
部屋に入ると、足の裏に、畳が沈む感触がした。ひんやりして、気持ちいい。
おばあちゃんは、少しやせたみたい。体が細くて、着物が余計に厚く見える。着物だけでも、けっこうな重さがあるはずだ。
帯を巻いているおばあちゃんに声をかけた。
「おばあちゃん、手伝おうか」
おばあちゃんが、曲がり始めた腰を大げさに反った。
「おや、ほんとうかい」
何ができるというわけでもないけど、おばあちゃんを見ていると、放っておけない。
「うん」
「そうかい、じゃあ、帯を持っておくれ」
おばあちゃんが、つかんでいた帯をさし出してきた。
帯を巻き始めたら、おばあちゃんが向こうの壁を見上げたまま、いつものやさしい声で言ってくれた。
「孫娘に着つけを手伝ってもらえるなんて、おばあちゃんは、幸せだよ」
おばあちゃんが胸もとの帯を、細い腕で上下させている。
健太君が、部屋の中へ入ってきた。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)