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連載ラノベ 夢ごこち(9)

 おばあちゃんの部屋の前まで駆けていった健太君が、ふすまを開けて、叫んだ。
 「おばあちゃん、美雪お姉ちゃん、来た」

 おばあちゃんは向こうの部屋にいるみたい。
 それに、久しぶりに会ったのに、健太君が、私のことをちゃんと「美雪お姉ちゃん」って呼んでくれた。

 立ち上がってふすまの前に行くと、健太君の顔は、まだ私のお腹くらいだった。並ぶと、健太君は、ますます小さい。

 健太君のつむじが真っ白だ。それに、髪の毛もさらさら。子どもの髪の毛って、どうしてこうも、きれいなのだろう。

 男の子は、もう少し大きくなると、へんにすれて生意気になってしまう。中学にあがると、顔じゅうに、にきびができる。
 でも、健太君のうなじは、しわ一つなくて、光っている。

 健太君が振り返って、私を見上げてきた。健太君が、笑った。真っ黒な瞳に吸い込まれそう。

 健太君の頭越しに、おばあちゃんの部屋をのぞいた。おばあちゃんは着替えの最中だった。

 おばあちゃんが、私の方を振り向いてくれた。
 「美雪かい、わざわざ、ご苦労さん」
 目を細めて喜ぶおばあちゃんの顔は、しわが目立つようになっている。
 おばあちゃんに声をかけた。

 「おばあちゃん、来たよ」
 部屋に入ると、足の裏に、畳が沈む感触がした。ひんやりして、気持ちいい。

 おばあちゃんは、少しやせたみたい。体が細くて、着物が余計に厚く見える。着物だけでも、けっこうな重さがあるはずだ。
 帯を巻いているおばあちゃんに声をかけた。

 「おばあちゃん、手伝おうか」
 おばあちゃんが、曲がり始めた腰を大げさに反った。
 「おや、ほんとうかい」

 何ができるというわけでもないけど、おばあちゃんを見ていると、放っておけない。
 「うん」
 「そうかい、じゃあ、帯を持っておくれ」
 おばあちゃんが、つかんでいた帯をさし出してきた。

 帯を巻き始めたら、おばあちゃんが向こうの壁を見上げたまま、いつものやさしい声で言ってくれた。
 「孫娘に着つけを手伝ってもらえるなんて、おばあちゃんは、幸せだよ」

 おばあちゃんが胸もとの帯を、細い腕で上下させている。
 健太君が、部屋の中へ入ってきた。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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