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書評「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上・下」白石一文著、講談社

 ストーリーは「週刊時代」のエリート編集長であるカワバタを主人公に、出版社と彼を取り巻く女性たちを舞台に進むという凡庸なもの。

 だがこの本は単なる小説ではない。小説の半分以上はミルトン・フリードマンやマザー・テレサら歴史上の著名人の引用と、延々と続く主人公の独白で埋まる。

 貧困、経済、結婚、不倫、セックス、そして死。現代社会の問題について、筆者の鋭い意見が主人公の独白を通じて語られる。時にストーリー展開を逸脱してまで続くその引用と独白のスタイルは、さながら啓蒙小説や哲学書のようだ。
 しかしその一つ一つの言葉が、読む者の胸の奥に矢のように突き刺さってくる。そのストーリーテリングの才はさすがというしかない。著者のファンなら鉄板でおススメだ。(税別1600円)

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