「floating view」(フローティング・ヴュー/浮遊する景色・眼差し)というタイトルには、ショッピングモールやファミリーレストランで均質化された郊外の景色と、そこに浮遊するアーティストたちの眼差しの、両義性が込められている。グローバリゼーションによって景観や共同体を破壊してきた「郊外的環境」は、郊外のみならず世界中の大都市をも飲み込みつつある。この状況を時代の病として否定したり、あるいは未来への楽観や過去への懐古でもなく。あくまで自らの手によって環境を改変・更新すべく削り出された、色彩や言葉や造形。それらが重なりあい、郊外に宿る身体性を呼び覚ます。
本展を企画したのは、郊外の景観をフィーチャーした「風景映画」で知られる映像作家の佐々木友輔さんで、コーディネーターはアートマネージャー/キュレーターの中山亜美さん。参加アーティストは、石塚つばさ、笹川治子、遠藤祐輔、川部良太、佐々木友輔、ni_ka、田代未来子、清野仁美、渡邉大輔、藤田直哉の各氏。
肩書きはそれぞれ、映像作家、写真家、美術家、批評家、研究者、詩人など多岐に及んでいるが、郊外の名の下に異質な個性が集結。均質化した郊外環境の持つ可能性を、郊外化しつつある東京で表現することによって、入れ子細工のようにして問題系を実感させる、ある種ゲリラ的な試み。日常に潜むゲリラ性は、参加アーティストの渡邉さんと藤田さんが所属する限界小説研究会の評論書『サブカルチャー戦争「セカイ系」から「世界内戦」へ』(南雲堂)で提起された「内戦化」にも呼応する世界的風潮だ。
必然的にその展示物は、展覧会場から東京都内の風景にも飛び出すこととなる。会場の最寄駅である水道橋や御茶ノ水の周辺の空間には、ni_kaさんによる「AR詩」がばらまかれており、それらはスマートフォン用アプリ「セカイカメラ」で読むことができる。AR(Augmented Reality)とは、拡張現実感もしくは強調現実感と訳され、人工物と自然物を重ね合わせるテクノロジーによってもたらされたりする感覚のことである。
3/5(土)15:00〜18:00には、このARについてのシンポジウム「AR(拡張現実)風景論」も同会場にて行われる。ゲストは丸田ハジメ(研究者・評論家)、若林幹夫(社会学者)、渡邉大輔(映画研究者・批評家)、清野仁美(アーティスト)、佐々木友輔(本展企画者)の各氏。郊外論と情報論の交差するAR(拡張現実)から生まれるアートの可能性について考える。
シンポジウムは3月26日(土)15:00〜18:00にも行われる。「サヴァイヴァル・ディーヴァは郊外都市となった」と題して、藤原えりみ(美術ジャーナリスト)、柳澤田実(哲学・宗教学者)、ni_ka(詩人)、藤田直哉(SF・文芸評論家)、石塚つばさ(アーティスト)各氏が、SFで描かれてきた「身体拡張」や「身体=都市」というテーマが「郊外都市」の姿として具現化されているとの観点から、郊外的環境における身体のあり方を探る。
各シンポジウムは「ななチャン」こと「学生メディアセンターなないろチャンネル」(http://nanachan.tv/)にて動画配信もされる予定。また会場では、佐々木さんと川部さんの映画4作品が1日2回ずつループ上映されているので、それを観に何度か足を運んでみるのも面白そうだ。何もなさそうに見えて実は全てがある、君と僕の郊外を行きつ戻りつ。(工藤伸一)
「floating view“郊外”からうまれるアート」
■会場:トーキョーワンダーサイト本郷(東京都文京区本郷2-4-16)
各駅より徒歩7分:御茶ノ水駅・水道橋駅(JR総武線) / 水道橋駅(都営地下鉄三田線) / 御茶ノ水駅・本郷三丁目駅(東京メトロ丸ノ内線) / 本郷三丁目駅(都営地下鉄大江戸線)
■アーティスト
石塚つばさ、笹川治子、遠藤祐輔、川部良太、佐々木友輔、ni_ka、田代未来子、清野仁美、渡邉大輔、藤田直哉
■開館期間:2月26日(土)〜3月27日(日)11:00-19:00[最終入場は30分前まで]
■休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
■入場料:無料
公式サイト
http://qspds996.com/floating_view/
公式ブログ
http://d.hatena.ne.jp/floating_view/
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 トーキョーワンダーサイト
http://www.tokyo-ws.org/
協賛:株式会社シアーズ
http://www.sears-itv.co.jp/
協力:学生メディアセンターなないろチャンネル
http://nanachan.tv/