吉原君、どんな顔をしているのだろう。
吉原君は、うつむいていた。吉原君は、私の返事を待ってくれているんだ。吉原君のことだから、私が何も答えなかったら、たぶん、ずっとこのまま。
やっぱり、吉原君は、いいかげんな人たちとは違う。私のことを、ちゃんと気づかってくれる。
私も、キスしてほしい。
「いいよ」
吉原君、まじめな表情のままだ。
けど、私の腕に、手を添えた。
どうしよう、私、今、男の子に、体をさわられている。
半袖がめくれてしまいそう。
吉原君、真剣だ。
「顔、上げて」
今度は、ほほの下、あごの辺りに、吉原君が手を添えた。吉原君の小指が、胸もとに触れちゃう。
でも、吉原君の手のひら、温かい。これが、男の子の体。
吉原君が、耳にからまっている私の髪の毛を、後ろに流してくれた。
吉原君、なんだか、年上の人みたい。こういうとき、どうすればよいのかを、知っている感じ。
「ねえ、目を閉じて」
うん。
目を閉じるとき、吉原君の後ろで、風がふいた。
初めてのキスは、一瞬で終わってしまった。
吉原君は、手をだらんと下げたまま、私の靴を見ている。
吉原君が、つぶやいた。
「ごめんね」
えっ、なんで、あやまるの。
「なんで」
「なんか、無理矢理、しちゃったみたいで」
そんなことないよ。
でも、そんなことないのに、なんて説明すればよいのかわからない。
下を向いてしまった。
吉原君の息づかいが聞こえる。
「帰ろっか」
吉原君、きっと、誤解をしている。私、キスされて、うれしかったのに。
けど、どうすればよいのか、わからない。
うつむいたまま、返事をした。
「うん」
帰り道は、手をつないでくれるかなと思ったけど、吉原君は、無言のまま、私の前を歩いた。時々、振り返って、「大丈夫」って聞いてくれた。私はそのたびに、下を向いたまま、うなずいた。
私は大丈夫だし、吉原君のこと、好きだよ。
ただ、今日は、体調が悪かっただけだから。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・EZU&夜野青)