やはり、川の流れが速くなっている。それに、台風はまだ来ていないけど、朝に見た時よりも、空が暗い。台風は予測よりも、近づいているのかもしれない。おばあちゃんの家に着いたら、ラジオを聞いてみよう。
健太君が、足もとの小枝をつかんで、川辺へ投げた。でも、小枝はすぐ茂みにひっかかってしまった。
茂みの中に、古い桟橋が見える。橋げたを縛り付けていた縄が、ちぎれてほどけている。雑草の上に垂れ下がって、風に揺れていた。
私が生まれた頃までは、この川には渡し船があったらしい。私がまだ小さかったとき、おばあちゃんの家で、近所のおじいさんが「いたずらをした子は、裸にして橋の下で縛りつけるぞっておどかしたもんだ」と、お酒を飲みながらほほを紅色に染めてしゃべっていた。
桟橋の近くに、川原に下りるための道が見える。道といっても、少しくぼんでいて、そこだけ草が生えていないだけだ。男の子たちも、あそこから下りたのかもしれない。
「健ちゃん、川に下りてみようか」
健太君は、振り向いたけど、何も答えない。なんだか、健太君を、どこかへ連れて行ってしまいたい。健太君の手を取った。
「ねえ、行ってみよ」
健太君は、嫌なそぶりを見せず、ついてきた。
健太君と手をつないだのは、何年ぶりだろう。やわらかくて、けど、少し汗ばんでいた。
健太君の顔を盗み見た。健太君は、うつむいている。恥ずかしいのかな。でも、まん丸おむすびのほっぺを膨らませて、私についてくる。
金比羅さんの参道では、吉原君と手をつなぐことができなかった。吉原君とも、いつかこうやって、手をつなぐことができるのかな。
川へ下る道の前に来ると、健太君が手を放してきて、それから、しゃがむような格好になって一気に土手を下りてしまった。健太君は、川の方へ走っていく。
私も、しゃがんで、脇の雑草やつるをつかみながら土手を下りた。けっこう、下りるのは大変だった。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)