この岩隈の去就が、前田健太(27)の移籍先も変えることになるのではないだろうか。
マリナーズが岩隈に提示した『規定額』とは、クオリファイング・オファーのこと。メジャー球団は契約最終年を迎える主力選手とシーズン途中に再契約してしまうケースも多い。メジャーでは慰留不可能と判断された場合はシーズン途中に放出し、若手選手との交換トレードをまとめるのが慣例だ。しかし、球団側が「残ってほしい」と思いつつも慰留交渉をまとめられないまま、シーズン終了を迎えてしまったとする。その場合、米球団側はワールドシリーズ終了から5日間に限り、独占交渉権を持てるが、メジャーリーガーの年俸上位125名の平均額を、1年契約の年俸分としてオファーを出さなければならないのだ。その平均年俸を『規定額』と言い、今季は1580万ドル、日本円で約19億1000万円となる。
岩隈はマリナーズから提示されたその1580万ドルを蹴ったのである。
「岩隈の15年度の年俸は700万ドル(約8億5000万円)です。規定額を受け入れていたら、大幅アップでした。岩隈サイドから漏れ伝わってくる情報によれば、最低で2年、3年以上の複数年契約にこだわっている、と」(米国人ライター)
クオリファイング・オファーが導入されて4年目となるが、過去3年間、この制度を使っての残留交渉がまとまめられたことは一度もない。
今さらだが、マリナーズは日本人選手に“好意的なチーム”としても知られている。任天堂株式会社代表取締役社長、同相談役などの要職にあった故・山内溥氏が筆頭オーナーを務め、その考えを受け継ぐスタッフも多いという。こうしたチーム事情を考えると、「いったん単年契約を交わし、来年オフに改めて自身の希望する複数年契約を交わす」選択肢もあったのではないだろうか。
前出の米国人ライターがこう反論する。
「来年、岩隈が1年間ローテーションを守れば、改めて複数年契約を交わすことも可能だと思います。でも、好成績をおさめたとしても、岩隈は来年35歳です。35歳になった投手が3年以上の複数年契約を勝ち取るのは、一般的に見て難しい」
だが、34歳と35歳では大した違いはない。岩隈がマリナーズ以外の米球団と複数年契約を結ぶのも厳しいはずだ。ここで思い出されるのが、岩隈と前田健太の代理人を務めるエージェント会社だ。岩隈と前田はエージェント会社が一緒なのだ。
『ワッサーマン・メディア・グループ』は大手エージェンシーであり、同社副社長のアダム・カッツ氏と、ジョエル・ウルフ氏が前田の交渉を担当することになっているという。また、ウルフ氏は、昨オフにジャンカルロ・スタントンとマーリンズの間で『13年総額3億2500万ドル』(約400億円)の超大型契約をまとめた敏腕代理人である。
「今オフも同社の名前がスポーツメディアを賑わせています。ブランドン・クロフォード遊撃手を『6年総額7500万ドル』(約92億2500万円)でジャイアンツとの残留交渉をまとめました」(前出・同)
同社はダルビッシュ有もサポートしており、過去には、松井稼、五十嵐、高橋尚といった日本人選手のエージェントも手掛けてきた。前田にとってはこれ以上ない、頼もしい後ろ楯ができたわけだが、クロフォードの残留以降、前田争奪戦がさらに過熱してきたようにも見える。
今オフの米FA市場の目玉は32歳の右腕、ザック・グリンキーだった。そのグリンキーの争奪戦は、慰留を目指したドジャース、先発投手の補強を掲げるジャイアンツとDバックスの三つ巴で始まり、ドジャースが脱落。その後、Dバックスがジャイアンツとの一騎討ちを征した。
「グリンキーの争奪戦がマネーゲームになれば、Dバックスが有利なのは一目瞭然です。ジャイアンツはクロフォードの残留に大金を投じてしまいましたから」(前出・同)
クロフォードの大型契約を仕掛けたのは、『ワッサーマン・メディア・グループ』だ。ジャイアンツのグリンキー獲得資金を目減りさせたとも言えなくはない。それに加えて、今回の岩隈の“規定額拒否”である。
ジャイアンツはグリンキー獲得に失敗し、マリナーズも岩隈の残留が難しくなった。本命にフラれたとなれば、次に目が行くのは、前田だ。
「資金力が豊富でグリンキーの残留に失敗したドジャース、そして、ヤンキース、レッドソックス、オリオールズなどが前田の入札に参加するようです」(同)
メジャーリーグのトレードやFA交渉を行うGM会議はすでに始まっている。前田の代理人であるカッツ氏は慌ただしく、各球団の控室をまわっているという。前田に関しては「一切話すことができない」と繰り返しているそうだが、<岩隈の規定額拒否で前田獲得の金額を一気に釣り上げ、グリンキーなど大物投手の獲得に失敗した米球団に岩隈を好条件で売り込む>なるシナリオを書いたというのは、穿った見方だろうか。(スポーツライター・飯山満)