藤浪晋太郎(21)が言った。これは阪神タイガース内のレクリエーションである『タイガース杯ゴルフ』の最中に出たセリフ。マエケンこと前田健太投手(27=広島)のポスティングシステムによる米球界挑戦が明らかになった。藤浪は2015年1月、前田が広島の若手を集めて行った自主トレに加わり、投球論や体作りなどを学んでいた。ペナントレースに関係のない自主トレとはいえ、阪神選手でありながら、広島選手の輪に独りで加わったことに驚いた関係者も少なくなかった。
「阪神には、自主トレに関する不文律みたいなものもあったんですよ。入団して3年くらい経つまでは(二軍の)鳴尾浜で自主トレをやる、という…。藤浪も球団の不文律を知っていましたが、『やってみたい』と球団上層部に相談し、許可を得ました」(球界関係者)
今季の完投7を含むチーム最多の14勝(7敗)の成績を見れば、前田との自主トレは意義があったわけだ。しかし、今も他球団のエースと親睦を深めることに批判的なOBもいる。
「オレたちの時代では考えられなかったこと。ライバルチームの選手と一緒に練習するということは手の内を明かすようなもの」
正論である。しかし、今のプロ野球界はライバルの関係が稀薄になったと言わざるを得ない。WBC、プレミア12の国際大会はもちろん、12球団は新たな資金源として侍ジャパンの常設化を決め、すでに動き始めている。招集された若手は普段接することのない対戦チームの主力選手と“野球談議”を交わし、経験したことのない練習法やコンディション作りに興味を持つ。藤浪が前田に弟子入りした理由も侍ジャパンにあり、チーム間の垣根を超えての情報の共有化はさらに加速するだろう。
藤浪は来年1月の自主トレについて、詳細は語っていない。前田のいない広島グループに加わるとは思えないので、おそらくは鳴尾浜に戻るか、施設の充実した場所を新たに探すことになるだろう。ひょっとしたら、自身が中心となって、同年代、ドラフト同期を誘い、新たなグループを立ち上げるかもしれない。
二軍監督に就任した掛布雅之氏が秋季キャンプ中、一部メディアに出演し、現代っ子とのギャップをこう語っていた。
「僕たちのころは先輩と自主トレをやろうなんて発想はなかった。だって、先輩に連れて行ってもらったら、その先輩を永遠に超えられないってことでしょ?」
時代は異なるが、『自分』を確立させることの重要性は変わらない。前田と決別した藤浪がどんな『自分』を作り上げるのだろうか。(スポーツライター・飯山満)