金本知憲監督(47)はそのもっとも重圧の掛かるトラの4番を任されてきた。引退してからも「アニキ」の愛称で親しまれてきたのはその重圧を何度も乗り越え、チームに勝利をもたらしてくれたからである。
「生え抜きのクリーンアップがいない。早く若手を育てなければ…」
金本監督は就任当初から何度も口にしてきた。生え抜きのクリーンアップが育っていないのは重圧に負け、「チャンスはピンチ」にしてしまったからだろう。また、掛布雅之二軍監督(60)も関西系メディアに出演し、若手育成の手段をこう語っていた。
「ファンも(若手を)厳しい目で見てほしい。(二軍球場のある)鳴尾浜にもたくさんのファンに来てもらったほうが緊張感も出る」
熱心な虎ファンは鳴尾浜に足を運んでいる。そして、好機で打てなかった野手、痛打を浴びた投手に厳しい野次を飛ばしている。それも愛情表現だろう。当たり前の話だが、鳴尾浜と一軍本拠地・甲子園球場とでは、観客数に雲泥の差がある。掛布二軍監督は二軍で鍛えられているときから、大勢のファンに見られ、その重圧のなかで試合をしていかなければ『トラの4番』は育たないと見ているのではないだろうか。掛布二軍監督は長くトラの4番を務めてきた。その重圧は誰よりも分かっている。また、貪欲になりきれない現代っ子の気質もこれまでの打撃指導で分かってきた。若手には言葉で説明するよりも、鳴尾浜を満員にすることで“重圧”を乗り越える精神力を付けさせようとしているのかもしれない。
また、金本監督の現役時代を知る阪神OBによれば、好機で打てなかったときは「翌日まで落ち込んでいた」という。
「意図的に『打てなかった』という落ち込んだ気持ちを継続させていたように思います。その緊張感を翌日の試合で継続させることで『次』につなげ、自分を追い込むことで甲子園の大観衆に負けないようにしていた」
金本、掛布両指揮官は、バットマンとして、体格に恵まれたほうではなかった。努力、練習というのは簡単だが、打球を飛ばす技術を習得してきた。そして、重圧に勝つ術も自分なりに習得してきた。
「素質のある選手もいる。だけど、素質だけでは長続きしない」
これは、金本監督が若手たちに伝えた言葉だ。強い精神力は練習量と緊張感を持ち続けなければ養われない。金本、掛布両指揮官は言葉こそ違うが、生え抜きのクリーンアップの育て方を考えている。甲子園の大観衆を楽しむくらい、逞しい精神力を持った選手が現れれば、『裏・格言』を完全消滅させるのだが…。