長与さんといえば、ライオネス飛鳥さんと組んだクラッシュ・ギャルズで、空前の女子プロブームを巻き起こした。70年代のビューティ・ペア(故・ジャッキー佐藤&マキ上田)、クラッシュの対抗馬だった極悪と並ぶ、昭和プロレスの偉人デュオだ。
およそ9年前に現役を退いたあとは、起業家に転身。現在は、ライブ居酒屋、ドッグサロン、体育会系居酒屋を経営する。そんな敏腕社長がなぜ、リングに戻ってくるのか。
「3年前、後輩のKAORUが試合中に踝(くるぶし)を負傷して、手術に及んだけど、感染症で丸2年も治癒にかかってしまった。彼女は復帰を諦めたけど、そんなとき、同じくドン底を経験した華原朋美さんのライブを観て、勇気をもらった。で、言われたの、『復帰します』って。それなら、その舞台を用意しましょう、と」
KAORUとは、あのアジャ・コングと同期のベテランファイター。長与さんが、全日本女子プロレス(消滅)で引退したあとに興した新団体・GAEA JAPANの発足メンバーで、以降、およそ11年にわたって、長与さんの懐刀だった。
そんなKAORUが、“復帰の相手をしてほしい”という行動を示しはじめたころ、戦友のダンプから、「このままじゃ、女子プロ界は先細り」と、嘆く連絡が入った。
その瞬間、“女・革命戦士”の魂が、起動した。
およそ1か月前から、店舗経営をしながら本格トレーニングを開始。それは、今年で50歳になる長与さんの想像を絶する厳しさだった。
「店が終わったあとの、深夜1時から5時ぐらいまでと昼間に、ジムでトレーニング。孤独で、苦しくて、自分と闘ってるけど、お腹周りの“おいしい”を、心の“苦しい”に替えていかないと」
食事は、自炊。決戦2週間前までは鶏肉、1週間前は牛肉、当日は炭水化物と決めている。「やるときは徹底しないと、気が済まない性格」のため、ローカロリーレシピを何種類も発案した。その甲斐あって、ウェイトは20kg以上もダウン。体脂肪は30%を切り、GAEA時代、最高峰のベルトだったAAAWシングル王者時代と並んだ。
「現役の子たちのような、高性能なエンジンはかけられない。古いアメ車の、古いパーツかもしれないけど、そんなアナログが今のデジタル化とどう絡むか。それは、すごく新鮮」
今イベントでは、プレイヤーと総合演出家を兼務する。大田区大会の終幕と同時に、その天賦の才を再び眠らせてしまうのか。
「プロレスを辞めて9年。一般のお勉強を、たくさんさせてもらった。これをなんらかの形にできればいいけど、プロレスの神様を味方につけられれば…の話かな」
長与さんに、NEXTはあるのか−−。(伊藤雅奈子)
【長与千種プロデュースイベント マーベラスナイトvol6「That's女子プロレス」】
●日時/3月22日(土) 開場15時、開演17時
会場/東京・大田区総合体育館
●おもな対戦カード/長与千種&花月&彩羽匠vsダンプ松本&KAORU&世IV虎/神取忍&里村明衣子&植松寿絵vsKAORU&井上貴子&浜田文子など全6試合
※華原朋美のスペシャルライブが緊急決定!
●問い合わせは、運営会社のMarvelCompany(http://www.marvelcompany.co.jp/)まで。