鉄道紀行の第一人者だった宮脇俊三さんが遺してくれた「鉄道旅行のたのしみ」(角川文庫、539円)は、国内の鉄道を網羅する。
<兵庫県の別府(べふ)鉄道に乗ると、時が何十年も逆もどりしたような気分になる。国鉄高砂線との接続駅野口の佇いはどうだろう。これほど寂しい国鉄との接続駅はほかにないだろう。しかもオープン=デッキつきの老朽客車などが走っている。ここに立つと、往年の「つばめ」や「富士」の展望車を思い出す。私が乗ったときは、車掌が「どうぞデッキに立ってみてください。展望車ですよ」といった>(西日本の私鉄の巻から)
なんと寂しげな風景、なんと心温まるエピソードなのか。ちなみに別府鉄道は1984年にすでに廃線になっている。こうした路線が本書には多数、登場している。鉄男、鉄子に憧れているなら、大先達である宮脇さんの本は必読だ。
世界の鉄道を知りたいなら、「鉄道世界遺産」(櫻井寛著、角川書店、879円)をおススメしたい。フォトジャーナリストである著者は100カ国の鉄道に乗ることを目標にし、現在まで83カ国を制覇している。インドのダージリン鉄道など世界遺産に登録されている5つの鉄道は、もちろん全線乗車済み。写真とともに紹介している。味があるのはヨーロッパの片田舎のロープウエーまで登場すること。さすがは鉄ちゃん、トコトン乗らないと、気が済まない?
車窓の風景から映画館のスクリーンに目を転じてみよう。「なりきり映画考」(矢野寛治著、書肆侃侃房、1890円)は、<中高大まで、両親のいない寂寞さから、映画を友として生きてきた>著者の渾身力編。副題に“日本映画人ダイアリー”とあり、その映画人とは監督ではなく、主演の男女優に悪役を含むバイプレーヤー。とりわけ、アクの強い脇役の紹介に力が入るのは、著者の生い立ちも影響しているか。著者の個人的事情にまつわる思い出とともに語る俳優論は、新鮮だ。
最後に1冊、お堅いところを。「世界金融恐慌序曲―危機管理の資産運用」(大竹愼一著、ビジネス社、1680円)は、サブプライム問題で実質的に破綻したAIG社員だったこともある辣腕ファンドマネージャーによる金融論。サブプライム・ショックが露見する直前に書かれたことがわかるが、その全容の発端が予見的に明かされている。仕事柄、資産運用法が解説されているが、終章では<畑を耕せ、森に帰れ>と説く。「なりきり〜」に負けず劣らずの奇書といっていい。