江は姉の茶々が親の敵である秀吉の側室になることが許せない。徳川家に嫁ぐ江と、豊臣の天下に執着する茶々の対立を予感させる。初(水川あさみ)は姉妹の溝を埋めるために、嫁ぎ先の近江から戻ってくる。これは徳川と豊臣の仲介に奔走した後年の初に重なる。
穏やかな北政所(大竹しのぶ)も実は茶々の懐妊に傷ついており、江とは共感、茶々とは対立の萌芽を見せる。これも徳川の天下を受け入れた後年の北政所と重なってくる。このように今回は今後のドラマを規定する内容になったが、江の演技も転機となっていた。
江は「猿も姉上も許さぬ」と叫び、茶々とは話もしなくなる。子どもっぽい態度であるが、これまでの江とは異なる。これまでの江は秀吉をどなりつけるなど感情のままに怒りをぶつけてきた。今回も秀吉のところにどなりこむが、茶々が秀吉を擁護する。ストレートに怒りをぶつけてきた江も、大切な姉への怒りは屈折して内に向かうことになる。
これまで江は、疑問や不満があれば何でも相手に質問していた。本能寺の変後の明智光秀(市村正親)に何故謀反を起こしたのかと尋ねたシーンが典型である。千宗易(石坂浩二)が何でもかんでも知りたがる江を傲慢と評したほどであった。ところが、茶々には自ら口を閉ざしてしまう。江は、心の奥底では秀吉を受け入れた茶々の心情を分かっているが、それを認めたくない。それ故に会話の拒絶という形で抵抗する。
これまでの江は天真爛漫かつ自由奔放な言動で、上野の当たり役であった『のだめカンタービレ』の主人公「のだめ」を連想させた。第16回「関白秀吉」では秀吉に助言するなど「のだめ」とは異なる知的な側面を示したものの、相手がバカ殿的な秀吉であり、コミカルな印象は変わらなかった。
それに対して今回の江は眉間にしわを寄せて、思い悩んでいる。上野が決して「のだめ」だけの女優ではないことは、2008年放送のフジテレビ系ドラマ『ラスト・フレンズ』での岸本瑠可役で示している。ここで「のだめ」と全く異なる雄々しい演技を見せたが、思い悩む江は岸本瑠可とも別タイプである。「のだめにしか見えない」で始まった江も、上野の演技の幅を広げる当たり役になることを期待させる内容であった。
(林田力)