様々な解釈が提示されてきた利休の切腹であるが、権力者・秀吉の横暴に屈服せずに茶人の美学を貫いた利休という構図が基本線になっていた。そこでは秀吉または秀吉に讒言する石田三成が攻撃側で、利休は受け身の立場であった。
ところが、『江』の利休は攻撃的である。前回の茶席で利休は、あえて秀吉の嫌う黒茶碗を使用した上に、茶頭の辞任を申し入れる。秀吉に辞任を拒否されると、「殿下に殺して頂きますかな」と応じる。利休が秀吉を怒らせている。
『江』でも三成(萩原聖人)は利休を失脚させようと画策する。その動きは豊臣秀次(北村有起哉)からも「三成は利休を妬んでいる」と懸念される。しかし、それが秀吉と利休の対立の原因にはならない。それは茶々(宮沢りえ)の台詞「三成に何か言われて動く殿下ではない。これはお二人の間のことじゃ。」が説明する。一般的な解釈(三成の讒言)に目配せしながらも新解釈を提示する。しかも、ドラマの準主役である茶々を秀吉の理解者として絡ませるという巧みな筋運びになった。
冷え切った二人の関係改善のために行動したのは秀吉であった。秀吉は利休の茶室を訪れ、利休の才能を認め、頭まで下げる。ところが、利休は「あなた様のために茶を点てるのが嫌になりましたんや」とそっけない。利休の方から秀吉に愛想を尽かし、三下り半を突き付けた。ここには嫌いな相手には我慢せず、茶人としての自分の人生を自分でコントロールするという積極性がある。
今回のサブタイトルは「利休切腹」であるが、実際に切腹するまでには一波乱ありそうな終わり方であった。それだけ『江』では利休切腹というイベントを丁寧に描いている。今回は利休没後に茶頭になる古田織部(古澤巌)が初登場した。今回だけを見ると織部はストーリーに影響しない端役で登場させる必然性が疑問視されるが、史実の織部は後に徳川秀忠の茶の師匠になり、江とも無縁ではない。また、大阪の陣後に徳川家康から切腹を命じられる点で利休に重なる。
茶席を主要舞台とし、茶道について思い入れ深く描いてきた『江』であるが、利休退場後も茶道の描写に注目である。
(林田力)