前半は満開の恋愛ドラマである。相思相愛を確認した桜庭美子(瀧本美織)と廉(玉森裕太)。一緒にいるだけで互いに幸せという初々しい恋愛を見せつける。それにショックを受ける本郷勇気(八乙女光)や「美男だけは譲れない」と宣言する藤城柊(藤ヶ谷太輔)と、恋のライバル達も光っている。
幸せいっぱいの美男と廉のカップルであったが、後半には急転直下する。二人の幸せを引き裂く存在が水沢麗子である。麗子は廉にとっては自分を捨てた憎むべき母親であり、美男の両親とも因縁がある。美男や廉の心理を読み手玉にとる憎々しいほどの余裕のある悪女であった。
麗子を演じる萬田久子はNHK大河ドラマ『天地人』で、上杉謙信の虚偽の遺言を偽証する妙椿尼を演じた。この偽の遺言が御館の乱の悲劇につながる。遺言の偽証は明らかに悪であるが、それが主人公サイドの利益になるという物語の善悪の価値基準が倒錯していた。それでいながら主人公の義を強調したところに『天地人』の不振の一因がある。
悪をなしながら悪女になりきれない中途半端さが残った妙椿尼に対し、『美男ですね』の麗子は悪女が全開である。美男に優しそうな言葉をかける態度も憎たらしい。他人を不幸にするためだけに存在するような女性を怪演していた。
『美男ですね』の二大悪女はNANAと麗子である。しかし、NANA役の小嶋陽菜はAKB48有数のマイペース派で、韓国オリジナル版のユ・ヘイ(ユイ)のような毒々しさに欠ける。ヘイは自分の方がファン・テギョン(チャン・グンソク)を好きなことを認めようとしないプライドの高さがあったが、NANAは専属ヘアメイクのトオル(楽しんご)から「恋する乙女」と揶揄されている。
パパラッチ記者に追及されて気絶したふりをするシーンは韓国版と同じである。韓国版ではヘイの図太さを印象付けたシーンであった。しかし、日本リメイク版では小嶋陽菜の根の善良さが隠しきれず、反対に記者(六角精児)らに手玉に取られている印象を与えた。
多少は同情できるキャラに設定変更されたNANAと比べ、麗子は韓国版のモ・ファラン(キム・ソンリョン)の憎々しさを残している。むしろ今は落ち目の歌手であることや過去の男性遍歴への悪評、健康面の不安などが描かれたファラン以上に、麗子は悪女になりきっている。日本ドラマで少なくなった突き抜けた悪人を描く韓国ドラマのシナリオにベテラン女優の演技力がマッチした。
(林田力)