search
とじる
トップ > トレンド > 文科系忍者記者ドラゴンの道「本に落書きされた痕跡本の魅力を探る」2

文科系忍者記者ドラゴンの道「本に落書きされた痕跡本の魅力を探る」2

 落書きをされた本を「痕跡本」と捉え、そこから「新しいストーリー」を読み取るユニークな視点を持つ男がいる。
 「古書 五っ葉文庫」の店長、古沢和宏氏は、愛知県犬山市で開催されたイベント、「ブックマークイヌヤマ」のブレーンの1人として、全国のサブカルチャー界や出版業界から注目を浴びている。 
    
 痕跡本のディープな魅力を聞いてみた…古沢和宏氏へのインタビュー(第2回/全3回)

 Q:記憶に残るドキドキする痕跡本ベスト10は?

 A:トップ3は自分にとっての転機となった本、という事で不動なのですが、それ以外は面白さの方向性がみな違う為、順位づけができません。でもそれだけ、いろんなベクトルの面白さが内包されている事も痕跡本の魅力だと思います。

■1.日野日出志 著『まだらの卵』
 表紙から数百カ所を針でめったざし。ザクザクにいためつけられた、言葉にならない”傷跡の読書感想文”。読むだけで、内容に併せて元の持ち主の心の闇までダブルで体験できる、世界一背筋にくる読書が味わえるホラー漫画。
 一番初めに痕跡本の面白さに気付かせてくれた一冊。この本がなければ自分は痕跡本収拾をしていなかったと思いますし、未だこれを超える本にも出会えていません。

■2.太宰治 著『津軽』
 ページの最後に書かれていたのは”たいくつなりし本なれど…故郷はいいなぁ”という書き込み。故郷を思ってふいに漏れた、溜め息の痕跡。
 言葉の重みとその裏のものがたりの深さの魅力の他、絵として映える本である為、自分の行う痕跡本チラシのほぼ8割に、この本のビジュアルを使っていました。ただ、もういい加減かぶり過ぎなので、これからは新しい看板女優を捜す予定でおります。

■3.森保 著『遺言は語る』
 遺言執行人の重厚なドラマに挟まっていた栞は、食い合わせ最悪のティーンズ文庫のもの。例えどんな栞だとしても、読書には関係無いと言い張れるこの前の持ち主は、どんな集中力の持ち主なのか。それとも極端なまでの無頓着なのか。どちらにしてもスケールが違います。雑音なんて意に介さない、大物にのみ許された読書。
 書き込みがある訳ではない、メモがある訳でもない。あるのはただ普通に栞が挟まっているだけ。でもこの本の面白さに気付いた時、必ずしも痕跡は本に刻まれたなくてもいい、人の手でつくられたものが見えなくてもいい、どんな形でもありなんだ、という事が解りました。この本に出会ったことで飛躍的に視野が広がった、記念碑的な本です。

■4.桑木嚴翼 著『ゲーテ 生活と作品』
 戦争の激化する昭和20年春、この持ち主は何を思ってこの本を買ったのか。購入後、終戦のどさくさの中で紛失し、そして終戦してからまた手にするまでの、ある人物の”戦争”の記録。

■5.『東京ディズニーランド ハンディガイド』
 貼られた付箋はレストランばかりのこのガイドブック。たとえアトラクション満載の夢の国でも、俺の夢は俺がみつける、という熱い食欲が聞こえんばかり。東京ディズニーランドで空腹を叫んだけもの。

■6.『本当の社会力』※画像参照
 表紙をめくると、びっしり記されたのは自分専用にカスタマイズされた「俺目次」。この本の内容を必ずや俺の地肉にしてくれる! という決意が太いマジックにも表されたかのような、肉食的読書の痕跡。
※ちなみに、この本は長野県でのイベント展示中に紛失してしまい、現在は手元にありません。この本を面白い、どうしても欲しいと思ってくれた人が盗んでいったなら、それはそれでいいかと思う事にしています。心の傷はまだ癒えていませんが…。

■7.三田誠広 著『Mの世界』
 ページの余白に無惨にも書かれたスパゲティのレシピ。本をメモがわりに使ってある訳なのですが、これをありえないと思うか、それとも何とも思わないかでその人が本好きかどうかわかってしまう、「踏み絵」な一冊。

■8.田中太典 著『てふてふの映画談義』
 正誤表に、さらに鉛筆書きで間違いが追記されているこの本、自費出版ぽい雰囲気なのですが、果たしてこれを書いたのは誰なのか。仮にも出た場合、1冊書いただけじゃ解決できないこの問題、行く末は如何に…。その後があまりに不安な一冊。

■9.W.アレンズ 著『人喰いの神話』
 人喰いの人類学とカニバリズムの心理について述べたこの本の最後のページ、カバーの折り返しに貼ってあったのはグラビアアイドルのシールでした。これはどっちの「たべちゃうぞ」なのか。

■10.にゅーAB著 『すてきなクラスメート』
 大きく白抜きで消されたエロ漫画の修正部分に続きが描かれているものの、肝心な部分は誤魔化したまま。童貞男子の妄想行動力とその限界が記された、イタい、しかし純な青春の記録。

■番外編:平井房人 著『寳塚』
 ゴキブリの糞がリアルな精子の形となり、運命の悪戯か裏のページの円形の図柄が透けて見える事で、実に受精の瞬間さえ描き出してしまっているこの本。下衆な男子衆の集合無意識が生んだとしか思えない、遠慮のない偶然の産物。
 『寳塚』は偶然が生んだ本であり、人の手で作られた痕跡ではない為番外編という扱いなのですが、でもこれから先、こういう偶然のイタズラ物も、重要な要素になってきそうな気がします。とにかく痕跡本の世界は未知数です。これから先も面白い痕跡に気付ける様、妄想アンテナを張り巡らしていきたく思います。

※第3回へ続く

※古沢和宏
古書 五っ葉文庫
店舗:愛知県犬山市犬山薬師町11-4 キワマリ荘
ブログ : http://ameblo.jp/itutubabunko

※イベント予定:8月31日に名古屋新栄のカフェパルルにて
痕跡本のトークイベントを開催。
http://www.parlwr.net/2010/08/post-6a84.html

※文科系忍者記者ドラゴン・ジョー(山口敏太郎事務所)

参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou

関連記事


トレンド→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

トレンド→

もっと見る→

注目タグ