−−水戸さん、今、音楽活動は順調ですか?
「おれは今、割りといい感じですよ。世間的には出てないけど(苦笑)。水商売に例えると、かつては全国チェーン店を展開したけど、最終的にカウンターだけのちっちゃな店に落ち着いた感じ。これが一番理想だったんじゃないかな。看板も出してない店なんだけど」
−−看板は出しているでしょう(笑)。分からないじゃないですか。秘密クラブみたいな?
「わざわざ探して来てくれる店(笑)。そういう展開の仕方。ひとつだけでもいい、そこのモツ煮は絶品だといえば来るからね」
−−それが商売として成り立つわけですね。
「そう。かつてチェーン展開の店とかもやった上で言ってることだから正解だと思ってる。はやりとか意識しなくて済むから」
−−モツ煮の味は変わんないですからね。
「あそこのモツ煮はうまいというのがある程度定着してれば、人はネットで探してでも来てくれるから」
−−20代のころ、全国展開していたころは自分たちが望まない形で、周りに勝手に店舗を増やしていかれたりしたこともあったわけですよね?
「そうだね」
−−店のディスプレイとかも勝手に決められたりとか?
「けど、モツ煮の味付けだけは変えてなかった」
−−モツ煮にこだわりますね(笑)。
「例えてるだけだよ(笑)。意地でも変えてなかったね、味付けは。若い子にも食べやすいように臭みを落とした方がいいよ、なんて言われたりしたけど」
−−そういう小さな店を構える楽しみを知ったのは30代後半から?
「いや、5年くらい前かな。40代になってからだね。アコースティックという形をやりだしたのが5年くらい前だよ」
−−アンジーも後半のころは、アンプラグド・スタイルだったですよね。
「そうそう。まさにそれが生かされてるんだよね。アンジーもアコースティック・ライブは得意だったの」
−−僕も好きでしたよ。味わいがあってね。水戸さんの詞の世界観がより深く出せるというか。
「いざやってみてバンドより面白くなっちゃったのね。確かに詞の細かいニュアンスが伝わると思う。バンドのMCとアコースティックのMCは全然違う。ここ5年でつかんできたものもあるしね。ライブってのは起承転結だな、と思うよ。笑って泣かせてっていう」
−−藤山寛美の芝居みたいだ(笑)
「というより落語だね」
−−落語ですか!?そうか、水戸さん落研にいたんですよね。
「そう。少なくともアコースティック・ライブのMCは落語だよ。バンドのライブのMCは漫才じゃないとダメなんだね。相方のいない漫才なんだ」
−−漫談ですね。立ち芸と座り芸の違いみたいな?
「そうだね、その違いかもね。バンドはテンポ重視で一発芸的なものも必要だよ。ロックは決めセリフ、RCの『愛し合ってるか〜い』みたいなものを持ってると強いよ。バンドだとテンション高いでしょ。だからそういうMCになる。アコースティックだともっとゆったりしてるからね。落語のつかみと一緒。ゆったりと入ってグッとつかむ。曲順とかで起承転結もつけるし」
−−アンジーは、もうやらないんですか?
「う〜ん、前の再結成から時間空いちゃったしね。またなんかのめぐり合わせがあったらやることもあると思うけど、それはお祭りだしね。もうそれぞれの人生があるし。けど、周りのみんな意外と音楽活動やめてないね」
−−やっぱり皆やめられないんだなあ。芸人は舞台の魅力知ったらやめられないから(笑)
「一度、歌蔵さんにも今のおれのライブ、見てもらいたいね。きっと思ってるイメージと違うと思うよ」
−−DVDじゃ伝わりませんからね。その場の空間での雰囲気。それも落語的ですね。
「そうそう。そういうところも落語的だと思う。おれ、落語家さんに観てもらいたいんだ(笑)」
−−ぜひ拝見させていただきます(笑)
「おれの人生の目標は名人になることだから(笑)。これから50〜60歳になってもカウンターの店の規模の音楽活動を続けて、死ぬまでには名人になるつもりだよ(笑)。そのころにおれは再ブレークする予定(笑)」
−−よっ、名人、って客席から声がかかる(笑)。なんだか今日は同業者と対談したみたいですよ(笑)。
<プロフィール>
みと はなのすけ 1962年6月生まれ。元アンジーのボーカリスト。アンジーは1988年にシングル「天井裏から愛を込めて」でメジャーデビュー。独特な作詞の才能と鼻にかかったボーカルスタイルは、一部に熱狂的な支持を得た。92年、アンジー解散。その後もソロとバンドで音楽活動を続け、99年、一時的にアンジー再結成。00年、水戸華之介&3-10chain結成。03年に病のため活動休止したが、04年2月に復帰。