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一部株主が猛反対で大荒れ 武田薬品のシャイアー7兆円買収の危うさ

 国内トップの製薬企業、武田薬品工業が、日本企業としては過去最高買収額となる約7兆円でアイルランド製薬大手のシャイアーと合意に達したが、一部株主や関係者の間では、期待とともに不安が増大している。

 シャイアーの売上高は約1.7兆円で世界的に見れば武田薬品の下で20位にランクする企業。しかし、純利益では約43億ドル(4600億円=2017年)で、武田薬品の約4倍だ。その強みは主に、血友病や注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療薬などの希少治療薬の特化と、100カ国以上への販売網だ。
 「売上の65%がアメリカのシャイアーを手に入れれば、武田薬品は世界でトップ10入りを果たし大きく飛躍する。しかし、不安の一つは、武田薬品の財務内容が、買収によって急速に悪化するのではないかという点です。買収価格が高すぎたともっぱらです」(医薬品製造関係者)

 武田薬品は'17年で売上1兆7320億円。純利益は1149億円、有利子負債は1兆円だ。この有利子負債は、'08年頃から次々と外国製薬会社を買収したことによるものだ。そして今回は、過去の規模を大幅に上回る7兆円の買収。その資金のうち3兆3500億円をJPモルガン、三井住友銀行、三菱UFJ銀行からの借り入れで調達する。
 「その負債の膨らみを懸念し、買収合意が大詰めに入った4月25日、武田薬品株は前日比9%安の4398円と大暴落した。加えて買収の合意が発表された5月には、世界の二大格付け会社の一つ、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスが買収規模の大きさを理由に同社の格付けを『A2』へ1段階引き下げたのです」(市場ウオッチャー)

 これに対し、武田薬品のクリストフ・ウェバー社長は、買収により「単純合算で売上高は2倍、利益水準は3倍になる」と強気の姿勢を示しているが、他にも不安材料がある。
 「問題は、シャイアーの賞味期限。稼ぎ頭の希少疾病領域の新薬群の一部が、'21年頃から特許が切れる。'16年にシャイアーが3兆4800億円を投じて買収した米バクスアルタの血友病治療薬は、スイスのロシュや独バイエルも新薬開発に積極的なため、シャイアーの高い純利益がいつまで続くかが不安視されているのです」(業界関係者)

 また、懸念される材料は内部にもくすぶっている。
 「武田薬品には『タケダの将来を憂う会』という、創業者の武田家一族と連携する株主グループがあった。今回は、その関係者が含まれるかどうかは不明ですが、OBや元社員らが結成している『武田薬品の将来を考える会』が、6月の株主総会に向けて今回の買収に懸念の方向で動き出したという。これが、株主同意を得る最終決着にどう影響するかです」(同)

 今回の買収を進めたウェバー社長は、イギリス製薬大手のグラクソ・スミスクラインの元幹部。
 '14年当時の長谷川閑史社長がウェバー氏を後継社長に指名した際、猛反発したのが『タケダの将来を憂う会』で、“創業家の乱”とも呼ばれた。
 「その第2弾がまた起きるのかが心配です。武田薬品は虎の子と言われた糖尿病治療薬のアクトス、高血圧のブロプレス、消化性潰瘍治療薬タケプロン、前立腺癌、子宮内膜症治療薬のリュープリンの4特許薬で稼ぎまくった超優良企業。それが相次いで特許切れとなり、新薬も創出できない中、長谷川社長時代から新薬が創出できそうな海外企業のM&Aに躍起になり、創業者一族と対立気味となった。そして、ついにはその反対を押し切った上で、ウェバー体制での安定経営の道を模索してきたのです」(業界紙記者)

 しかし、ウェバー社長就任後も目立った成果はなく、3年余りを経た。そこで突破口として打ち出したのが、今回のシャイアー買収と言われているのだ。
 「『考える会』などの買収への懸念ももっともです。しかし、本体がなかなか新薬を創出できない今、経営を維持するには、期待できそうな企業を買収してつないでいくしかない。シャイアーは近いうちに創薬が期待され、開発中とされる研究がいくつかあるという。そのために世界第2位の製薬企業の米ファイザーほか、複数の企業がシャイアー買収を模索したと言われます。武田薬品は、このチャンスを逃す手はないとも言える」(同)

 株主等が懸念するリスクを持ちながらも、買収に動かなければならないギャンブル的な選択とも言えるが、こんな見方もできる。
 「武田薬品が打って出なければ、他の大手製薬会社がシャイアー買収に動いていた。今回失敗すれば、次は武田薬品そのものが買収されかねない状況なのです」(前出・業界関係者)

 7兆円買収は吉と出るか、凶と出るか。

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