『トリコ』はバトルを軸とする少年ジャンプの王道マンガであるが、小松の存在が良い味を出している。優れた王道マンガはバトル中心であっても、主人公の周囲にはバトル向きではないキャラクターを登場させることが多い。たとえば鳥山明『ドラゴンボール』のブルマである。
強いキャラクターしか登場しない弱肉強食の世界は少年マンガの世界観として味気ない。それ故にバトルや冒険に足手まといになったとしても、バトル向きではないキャラクターを主人公と一緒に行動させる。そのようなキャラクターが足手まといになるエピソードを加えることが物語に起伏を与えることになる。
一方でバトル向きでないキャラクターを危険な冒険に参加させることはリアリティに欠ける。そのためにバトル向きではないキャラクターを登場させない作品も多い。岸本斉史『NARUTO -ナルト-』はヒロインのサクラも戦闘員である。尾田栄一郎『ONE PIECE』ではナミやウソップがバトル向きではないキャラクターに近かったが、今はかなり強くなった。それでも主人公や強敵との相対的な力の差によって、バトル向きではないキャラクターに近い役回りを果たすことになる。
あくまでバトル向きではないキャラクターを冒険に参加させるならば、何らかの理由付けが望まれる。たとえばブルマにはドラゴンボールを探すドラゴンレーダーの開発者という設定があった。一方で理由付けを深めずに、物語の成り行きや主人公との腐れ縁で足手まといキャラを冒険に参加させる作品も多い。
『トリコ』の小松も成り行きという面が強かったが、この巻では食材の声を聞くというトリコには欠ける能力を発揮した。これまでも小松はシェフとして食材を調理する能力を発揮していた。しかし、今回のエピソードはトリコを拒絶したオゾン草の声を小松が聞いたという点で相互補完するコンビとして象徴的な意味を有している。
(林田力)