秋季キャンプの一日は長い。全体練習が始まるのは、午前9時過ぎ。午後4時頃には終了する。しかし、早出特打ちをする中堅・若手もいれば、居残り練習を志願する選手もいて、「球場を出たのは午後8時過ぎ」なんて日もある。
春季キャンプの一日も長いが、そちらはペナントレースを見据えた“調整の意味合い”が強い。
「ここでアピールしなければ」「来年こそ…」“リミッター解除”とまでは言わないが、秋季キャンプでは無理をしてくる選手も多い。
>>阪神トレード加入の渡邉、二塁奪取は絶望的か 岡田新監督は期待も致命的問題、新庄監督は愛想尽かした?<<
トラの秋季キャンプについて、チーム関係者の一人がこう言う。
「岡田彰布監督も、この秋季キャンプ中に各選手の特徴を把握したいとしています。新任のコーチも何人かいますし、今まで解説者、OBとして外部から見てきた印象と、実際の姿を見比べ、色々と考えています」
岡田監督は関西系メディアで「二遊間の再構築」を優先事項に挙げていたが、秋季キャンプ初日の11月2日は違った。
「一番飛んでたんちゃう?」
午後の練習が再開された時、いわゆる監督付きとなった記者団と顔を合わせるなり、そう言って目を細めた。
昼食の時間帯、選手たちは順番に食事を取るのだが、後ろの方になった選手はケージに入り、フリーバッティングを行う。岡田監督は別室で食事を取りながらもその全てを見ていて、高卒3年目の外野手・井上広大(履正社)のパワーに驚いたと言う。
その口ぶりからして、一軍定着へ一歩近づいたのではないだろうか。そんな岡田発言に“2つの事前情報”が重なった。
「高校卒の選手が(スタメンに)一人もいないなんて、寂しすぎるんちゃう?」
2022年シーズン中盤、岡田監督は阪神戦中継の解説者を務めていた際のことだ。「3番・近本、4番・大山、5番佐藤」の生え抜きクリーンアップが編成され、それについて聞かれると、必ずそう答えていた。
ドラフト1位指名の選手がチームの中核を担っており、「若手が育っている」と捉えられていたのだが、岡田監督の着眼点は違った。高校卒選手が伸び悩んでいる現状を嘆いていた。だとすれば、19年ドラフト2位の井上の成長は「チーム改革の象徴」ともなりそうだが、こんな情報もあった。
「今年のドラフト1位は、森下翔太外野手(中央大)です。第一次政権で鳥谷敬を育てたように、森下を1年目からレギュラーで使うつもり」(前出・チーム関係者)
これから獲得する新外国人選手との兼ね合いもある。また、岡田監督は16年新人王の高山俊が伸び悩んでいることも気に掛けていた。外野の新レギュラー候補は多い。
「岡田監督は、伸び悩んでいる若手、中堅にきっかけを与えてやれば大きく変わると見ています」(前出・同)
その「きっかけ」というのは、至ってシンプルなもの。井上はほんの少し、ミートポイントを前にしただけだった。
「ビックリしています」
井上が指揮官のお褒めの言葉を記者団から伝え聞いたのは、午後7時頃。居残りでバットを振っていたのだ。この長い一日が、伸び悩んでいた選手を再生させるのだろう。(スポーツライター・飯山満)