遺体を発見したのは地元に住む少年4人。この日、少年らは大人たちに内緒で鳥の巣探しと密猟を行うためにハグレイ・ウッドを訪れていた。そこで木の洞から頭蓋骨のようなものが見つかったというのだ。頭蓋骨は動物のものではなく、人骨だったのである。
少年の両親から通報を受けた警察は、すぐに問題の大木を捜索。その結果、頭蓋骨のほかにも胴体や足など、ほぼ全てがそろった白骨死体が発見された。遺留品として、靴や結婚指輪、衣服の断片も見つかったという。調査の結果、遺体は女性のものであり、早くても18カ月前には死亡していると断定された。口の中からは絹織物の断片が見つかり、被害者は窒息死していたことも分かった。また、遺体が発見された大木の寸法から、死亡後間もなく木の中に押し込められた可能性が高いとされた。死後硬直の後では、遺体を入れることはできない大きさだったからだという。そして、彼女が誤って木の洞に落ちた可能性はあり得ないことから、殺人であると判断された。
警察は遺体の身元を特定するために周辺地域の行方不明者情報との照会を行った。また、遺体に残された歯の治療跡が特徴的だったことから、国中の歯科医からも情報を募ることにした。しかし、遺体と一致する情報は一つも見つからなかった。
犯人につながる証拠もほとんど見つからず、次第に世間の事件への関心も薄れていく中、事態が動いたのは1年後。バーミンガムの住宅街で、この事件に関する落書きが突如発見された。内容は「Who put Bella down the Wych Elm - Hagley Wood」。直訳すると「ベラをハグレイ・ウッドのセイヨウハルニレ(遺体が見つかった大木)に置いたのは誰だ」というものだ。この時点で警察でも被害者の身元は特定されていなかった。警察は落書きを残した人物を探す一方で、ベラという人物に関しても調査を進めたが、結局見つけることはできなかった。この落書きはその後、数カ月にもわたり周辺地域で散発的に書かれたという。
>>贈答品に偽装した郵便爆弾で警視庁幹部夫人を爆殺、自供した真犯人が逮捕されない真相【未解決事件ファイル】<<
この事件は2021年6月現在も未解決のままだが、当初警察の捜査では「黒魔術」の儀式による犯行説も疑われていた。手が切断され、骨が散らばっていた遺体の状況は、オカルト儀式として当時知られていた「栄光の手」と類似していたからだ。また、落書きに書かれていた「ベラ」という名前は、オカルトと関連性が高い「ベラドンナ」に結びつけられているのではないかという声もあった。遺体が木に隠されていたのも、「死んだ魔女を木の中に閉じ込めることによって来世に害を及ぼすのを防ぐ」という言い伝えとつながっている点も根拠の1つだという。
他の仮説には、ドイツのスパイ説もあった。第二次世界大戦中にイギリスがこの地域で数人のドイツ人スパイを捕らえたことから、被害者は戦時中のスパイに関係しているのではないかというものだ。実際、地方新聞社のもとに「被害者は軍需工場について調査していたドイツのスパイだ」という手紙が送られたこともあったそうだ。しかし、警察は手紙の内容を虚偽と判断し、捜査は行われなかった。
犯人はおろか、身元さえ特定されていない白骨化遺体。なぜ遺体は木の中に置かれたのか、落書きは一体何を示しているのか。黒魔術もスパイも結局噂止まりで捜査にはつながっていないものの、それらを含めて多くの謎が残されている事件である。