>>ゴールデンタイムのテレビを電波ジャック、意味不明な言動と女からのスパンキングを流した犯人の意図とは【未解決事件ファイル】<<
事件が起きたのは終電間近の午後11時半頃。Aさんは同じ大学に通う友人らと駅前の飲食店で食事をして、家に帰宅するところだった。しかし、ホームに上がる階段付近で突然男に絡まれてしまう。Aさんに絡んだ男は酔っていた様子で、しつこく付きまとっていたことが目撃者の証言で明らかになっている。Aさんは男を避けようと抵抗したが、お互いつかみ合いのような状態になり、ついに男はAさんを殴り倒した。Aさんはそのままホームに激しく倒れ、けいれんしたまま動かなくなったという。男はというと、ちょうどホームに入ってきた山手線の日暮里駅方面行きの電車に飛び乗って逃走したことが目撃者によって確認されている。男が乗った電車は午後11時37分発の電車だった。
その後、救急車で搬送されたAさんは病院で意識を取り戻し、一時は命に別条がないと診断された。しかし、事件翌日の12日に容体が急変。医師らによる懸命の治療もかなわず、16日早朝に息を引き取った。死因は外傷性脳内出血だったという。
警察は傷害致死事件として捜査を開始。しかし、捜査は早々に行き詰まってしまう。事件を目撃したであろうJR池袋駅の利用者たちがほとんど証言に応じてくれなかったのだ。Aさんと男が口論になっていた際には数十人の野次馬がいたとされているが、救急車が到着したときに残っていたのは高齢者の女性1人だけだったという。なぜ周囲の目撃者がAさんに付き添わず、証言もしなかったのかは分かっていない。帰宅を急いでいたのか、事件と関わりたくなかったのか、傍観者となってしまった罪悪感かもしれない。2人が争っていた際も止めに入る人物はいなかったそうだ。
それでも、警察は何とか目撃者らの証言をかき集め、犯人のおおまかな特徴を捉えた似顔絵を作成 し、事件現場や警察HPで公開された。犯人は20代後半から30代後半の男で、身長は170センチから180センチ程度、目つきはすわっていたというが、スーツを着た普通のサラリーマン風だったという。しかし、犯人特定につながる決定的な証拠は見つからず、結局逮捕には至らなかった。
Aさんの遺族らは警察の捜査とは別に、独自で犯人の捜索を行った。事件から2カ月後には、警察が作成した似顔絵とそっくりな人物と北千住駅で発見した。しかし、途中で見失ってしまいそれ以降、容疑者と似ている人物を見つけることはできなかったそうだ。
この事件は当初傷害致死事件として扱われていたため、2003年には時効が成立しそうになったが、遺族が集めた3万5000人分の署名と公訴時効延長を求める嘆願書により2003年3月に容疑が殺人罪に切り替わった。2010年4月には殺人罪の時効が撤廃されたものの、遺族の要望で今年12月11日に容疑者不明のまま書類送検となり、捜査は打ち切られることになった。
捜査打ち切りについてAさんの父親は「もう十分捜査をしていただいた。担当の捜査員の方にはほかの事件にあたってほしい」と報道陣の取材に対して答えたという。周囲の目撃者がもし容疑者を取り押さえていたら、警察に証言してくれていたら、事件は解決していたのだろうか。Aさんと男が何を争っていたのかも分からないまま警察の捜査は終結した。