「ねえ。マウンド(の傾斜)、変えた?」
試合前半、取材陣の中でそんな会話が交わされていた。
同日、千葉ロッテの先発は途中入団のチェン・ウェイン。9月21日に契約し、日本球界に9年ぶりの復帰を果たした。中日時代に獲得した最優秀防御率(2009年)のタイトルはもちろんだが、メジャーリーグ通算219試合を投げ抜いたように、実績は十分。しかし、今は故障でほとんど投げていない。また、新型コロナウイルスの影響で、チームは二軍戦を行っていない。8日にシート打撃登板したものの、帰還登板は“ぶっつけ本番”となってしまったのだ。
「中日時代とは投げ方が変わっていました。全身の無駄な力を全て抜き、柔らかい、良い意味で力感のない投げ方で直球や変化球を投げ込んでいました。直球とスライダーが全く同じ投げ方なので、対戦バッターは驚いたはず」(プロ野球解説者)
チェンの好投を後押ししたのが、ZOZOマリンスタジアムのマウンドだった。
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昨年11月のプレミア12大会の舞台ともなった同球場は、マウンドを“国際仕様”に変えている。「柔らかい、傾斜がなだらか」とされる日本の野球場のマウンドに対し、海外球場は「硬く、急勾配」だと言われている。ZOZOマリンは国際仕様に造り替えたマウンドの形態を、ロッテ投手陣のリクエストもあって、今も継続しているのだ。
快調に投げ込むチェンとは対照的に、苦戦していたのが楽天先発の涌井秀章だ。初回、千葉ロッテの1番・藤原に先制の本塁打を食らったが、投げ終わるのと同時に滑って尻餅をついている。その後も、何度かマウンドの土を整え直していた。涌井のそんな仕種を見て、取材陣も「マウンドを造り替えたのか?」と確認したのである。
同日、マウンドの形態が変わるほどのグラウンド整備はされていない。関係者にも確認したが、改造は否定していた。“違和感”は涌井のフィーリングのようだが、それがベテランの本領発揮につながった。
「左足を挙げる高さを変えたり、クイックモーションを使ってみるなどし、マウンドに順応しようと工夫していました。試合の中で修正し、かつ藤原の一発だけに抑えたのはさすが」(前出・プロ野球解説者)
マウンドの違和感がベテランらしい落ち着きにつながった。
6回2失点で降板したチェンも、国際仕様のマウンドで力を発揮してくれた。帰還登板を勝利で飾ることはできなかったが、井口資仁監督は首位・ソフトバンク追撃の手応えを感じていたはず。チェンのキレ、涌井の順応力、マウンドの傾斜が投手戦を演出してくれた。2位(千葉ロッテ)と3位(楽天)が好ゲームを見せてくれるのだから、パ・リーグの優勝争いは最後までもつれそうである。(スポーツライター・飯山満)