本作は8mmフィルムを使った荒い画質が特徴で、国際映画祭にてプレミア上映が行われ注目された。
映画『砂の影』の舞台は現代であったが、実は本作にはモデルとなった殺人事件が存在する。それが今回紹介する「ラストダンス殺人事件」である。
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事件は1983年(昭和58年)夏に発覚した。
7月30日、東京都練馬区のあるアパートで異臭騒ぎがあった。「どこからか腐った臭いがする」という近隣住民からの通報を受けた大家は、異臭を放っている部屋が23歳の女性、A子の部屋であることを突き止めた。
大家は合い鍵を持ってA子の部屋へ立ち入ったところ、畳の中からとんでもない異臭がする。大家が畳をどけたところ、そこにはドロドロに腐った人間の死体が横たわっていた。
驚いた大家はすぐに警察へ通報。死体には爆弾のようなものが抱えられており、このアパートには警察・機動隊員たちが集まり、大騒ぎになった。
結果、ダイナマイトのようなものは赤いおもちゃだとわかり、同時にこの死体の身元も発覚した。
死体はOという28歳の男性で、死後40日間が経過し、首を紐のようで絞められた窒息死であることがわかった。
しばらくして、部屋主であるA子が発見され、彼女は警察に逮捕された。
A子とOは共に同じ大学に通っていた先輩後輩で、同じ映画サークルに所属していたカップルだった。
Oは映画サークルのほか学生運動にも係わっており、そのOの反体制的な思想にA子は心酔しており、恋愛関係は卒業後も続いた。
ところが、社会に出たことで二人は反体制的な思想から徐々に覚めていき、Oはルポライターになる道を模索したがうまくいかず、気が付けばOも30代目前になっていた。
A子はOに別れ話を切り出すも受け入れられず、A子は次第にOを心から憎むようになっていた。
1983年6月、A子はOを殺すため自宅へ呼び、ラジオから流れる洋楽に乗ってダンスを踊った。ダンスが終わるとA子は電話コードをOの首にかけ殺害した。
そして、A子はOの遺体と同居することを選んだ。その同居生活は40日間に及び、Oの死体はやがて異臭を放つようになっていた。
「ラストダンス」「遺体との同居」とOを殺してからのA子の供述は、あまりに現実離れしていたため、精神に異常がある事が疑われ、懲役7年となった。
映画サークルで知り合ったカップルの別れは、まさに映画的な結末を迎えたのだ。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)