そんな中、女性と男性の言い争いが始まったのは、23時を回った頃だった。
女性は30代後半の派手な見た目をしており、男性側はスーツを着た50代手前の中年で、見ようによってはホステスと酔客の喧嘩、中年カップル同士の痴話げんかのようにも見えたという。
>>女教師が夫をバラバラに「荒川放水路バラバラ殺人事件」【背筋も凍る!女の事件簿】<<
そして、事件は起こった。女性は男性をホームへと線路へと突き飛ばした。
ほかの客も線路に落ちた男性を救おうとしたが、間に合わず、男性は千葉発御茶ノ水行きの電車とホームの間に挟まれて即死してしまった。
駆け付けた警察がやって来て、突き飛ばした女性は逮捕。目撃者も含めて、その時何があったのかの検証が行われた。
逮捕されたのは、熊本県でダンサーをしている41歳の女性。突き飛ばされたのは47歳高校教師であった。
ダンサーの女性Aは、熊本から遠征で千葉へと来ていたのだが、供述によると、ホームで電車を待っていた際、酒に酔っていた男性教諭がAに執拗に絡み出し、彼女の肩を押したり体を触ったり、「馬鹿野郎!」と暴言を吐いていたという。
Aは抵抗し、「助けてください」と周囲に声を掛けたが聞いてもらえず、男から距離を取ろうと突き飛ばし、そこに電車が来てしまったのだという。
裁判の焦点は、Aの行動が「正当防衛」に当たるかどうかだった。
Aが酔った男性教諭に絡まれていたのは事実であるが、「電車がまいります」というアナウンスが聞こえた後であったため、彼女には明確な意思があり、実刑は免れないとされたのだ。そのため、千葉地検は当初は懲役2年を求刑したのだが、後に男性は過去、酒に酔って人身事故を犯した過去があること、このニュースが報じられ、「Aの行為は正当防衛が成立するのではないか」との声が相次ぎ、半年後の9月には逆転無罪となっている。
なお、この事件の行方は、1986年当時はワイドショーなどでもたびたび特集され、8年後の1994年には本事件を題材にした土曜ワイド劇場(テレビ朝日系)で、『事件2 OLが見たホーム転落死の真相!』と題した2時間サスペンスが放送された。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)