1957年、映画会社の大映からひとりの女優がデビューした。名前は毛利郁子といい「バスト96、ウエスト55、ヒップ92」という豊満な肉体を売りにしたグラマー女優として売り出された。
当時、大映をはじめとする映画会社の女優は、絵に描いたような清純派から、男の欲望を満たすような肉体派の女優まで数多く売り出しており、これはそのまま戦後経済の豊かさを表していた。
さて、毛利はその美貌と肉体、演技力を武器に大映では時代劇から現代劇、特撮映画に至るまで100本以上の作品に出演した。
とりわけ時代劇や特撮映画では重宝されたようで、時代劇では1本の主演映画、特撮映画では妖怪・ろくろ首役で2本の映画に出演している。
しかし、順風満帆に見えた女優生活だったが1969年、毛利は当時交際していた芸能プロモーターの男性とのドライブデート中、別れる別れないのもつれ話から、プロモーターを持っていた刃物で刺してしまった。
毛利は相手を刺したときハッと我に返り、慌てて通りがかりの車に助けを求めたが間に合わず、芸能プロモーターは死亡してしまった。
当時の新聞記事などによると、毛利は「あの人と結婚できなかったら死んでやる」と周囲に漏らしていたほか、芸能プロモーター氏も既に殺意に気が付いていたらしく、息絶える寸前に「彼女は悪くない、俺がやったんだ」と最後までかばっていたという。
毛利は逮捕され、裁判では「極めて悪質な犯行」として重い刑が処されるはずだったが、本人が強く反省していること、勝新太郎をはじめとする俳優仲間からの嘆願書などもあり、懲役5年となった。
出所後、毛利は女優に復帰することなく引退。ある男性と結婚し二度と表舞台に出ることなく幸せに暮らし続けたという。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)