王さんには「長嶋さんに追いつき、追い越せ」という強烈なライバル意識があったが、プロ入り1年目にいきなり本塁打王、打点王の2冠王に輝き、ゴールデンルーキーとしてスターの座をつかんだ長嶋さんには、かわいい後輩という意識しかなかったのだろう。王さんがダイエー監督時代の2004年、春のキャンプ地を高知から巨人時代になじみのある宮崎に移した。アテネ五輪日本代表監督だった長嶋さんが、そのダイエーの宮崎キャンプを視察に訪れた時のことだった。
「ワンちゃん、素晴らしいキャンプ地だね。宮崎市長にお礼を言わないといけないね。宮崎市長は良く知っているから、電話をするよ」
こう言い出した長嶋さんはすぐに宮崎市長に携帯電話をかけたのだ。それを見て「宮崎市長はすでにキャンプ慰問に来ているので、お礼は言ってありますよ」と、王さんは苦笑するばかりだった。先輩としての長嶋さんの小さな親切、大きなお世話に対し、後輩としては怒るワケにもいかず、苦笑いするしかなかったのだろう。
「長嶋さんは勝負強い中距離ヒッター。王さんの方はホームラン打者というタイプの違いもよかったのではないか。同じタイプの打者だと違っていたかもしれない」という巨人OBもいる。「長嶋さんに対しては、無意識の対抗意識が多分にあった。そういうものが持てる以上の力を引き出し、より強力なコンビになって相手チームを制圧した」。王さんがこう言えば、長嶋さんは「ワンちゃんがいなかったら、僕の444本塁打も1割は減っているだろう」と王効果を口にする。
「実際のところ、長嶋と王は仲が良いのか、悪いのか。どちらなんだろう」と、ファンはよく素朴な疑問を投げかけてくる。実際のところを言えば、仲が良いとか悪いとかという次元の関係ではない。人生観や野球観などすべてにわたり、対照的な面があるのは事実だが、互いに認め合う点も多いから、冷戦はない。が、一緒に食事をしたりする間柄ではない。大人の関係というべきか。
ONの間を一番急接近させたのは、巨人・長嶋監督解任に続き、1988年のシーズン終了後に巨人・王監督も解任された事件だった。「オレだけでなく、ワンちゃんにも同じことをするとは許せない」。1980年オフの長嶋電撃解任と同じく、ドンと言われた元V9監督・川上哲治氏の介在がウワサされた王解任事件に長嶋さんが激怒したのだ。
「ワンちゃんに電話して、一度ゴルフでもして慰労してあげたい」と長嶋さんが言い出し、「ON連合」「ON党」旗揚げなどと話題になった。千葉・市原のゴルフ場に巨人OB、球界OBが集まり、「ONが監督復帰した場合、スタッフとして参加、結束しよう」と誓い合った。
ご意見番として金田正一、張本勲両氏。元V9メンバーの柴田勲、土井正三、黒江透修、高田繁、堀内恒夫氏。若手OBの江川卓、小林繁、定岡正二氏。巨人以外では江夏豊、平松政次、山崎裕之、東尾修、田淵幸一氏。そうそうたるメンバーだった。