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連載ラノベ 夢ごこち(7)

 この駅に降りたのは久しぶりだ。

 私の家から電車で一時間くらいの場所だけど、もう、何年も来ていなかった。
 駅前に新しくデパートができたことは聞いていた。それに、人も、少し増えているみたい。
 空気が生暖かい。街が蒸している感じ。なんでだろうと思ったら、駅舎から出てすぐに見えた畑が、全部、無くなっていた。

 昨日、吉原君と金比羅さんへ行ってキスをした。そのあと、琴平駅から電車で家に帰った。お母さんから「明日、一晩、おばあちゃんの家で泊まってくれない」と頼まれた。
 なんでも、おばあちゃんと、伯父さんと、伯母さんの三人が、急な葬儀で、高松へ行くことになったらしい。

 おばあちゃんの家には、小学校二年生の健太君がいる。
 でも、健太君を一人で家に残して留守番をさせるわけにはいかないので、私がおばあちゃんの家に泊まることになった。最初は、健太君をうちに泊めるという話になったみたい。けど、健太君の送り迎えのことなどがあって、私がおばあちゃんの家へ行ってしまったほうが、てっとりばやいという話に落ちついた。

 駅舎の階段から見上げたら、空が、どんよりしていた。昨日も、そうだった。
 山の方は真っ黒だ。

 今日の新聞に、台湾沖で大型の台風が発生したと書かれていた。けど、上陸するにしても、週が明けてからになるらしい。あの山にかかっているのは、台風とは別の雲だ。
 まだ午前中なのに、駅舎の周りも、もう夕方みたいに陰っている。みんな無口で足早に歩いていく。

 この空を見ているだけで、体が重くなる。
 山のふもとは、夜みたい。
 暗雲が地の底からわき上がっているよう。
 翼だ。
 黒く染まった雲が、鳥の形をしている。羽を広げているんだ。あの雲の下にいたら、くちばしで狙われてしまいそう。
 黒い雲の下に鳥が集まっている。
 怪鳥かも。

 でも、たぶん、ほんものの怪鳥は、雲の中にいる。今、見えている鳥は、怪鳥のしもべたち。
 怪鳥は、雲の中から奇声をとどろかせて、下界の獲物をねらっているんだ。

 なんだか、不吉な一日になりそう。
 おばあちゃんたちは、お昼には家を出るそうで、私は午前中のうちに、おばあちゃんの家に到着した。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・EZU&夜野青)

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