海外情勢
-
社会 2023年07月24日 07時00分
海外旅行先から帰国できない可能性も? ヨーロッパの空港で起こっている大トラブル
今年はお盆に旅行を計画している人も多いのでは。コロナ禍で旅行が難しい時期が続いたが、待ちに待った機会。ヨーロッパなど遠出をする人も少なくない。しかし現在、ヨーロッパではフライトに関して大きな問題が起こっているというのだ。 コロナ禍によってヨーロッパの航空会社は経営難となり、多くの人員を削減した。中でも顕著だったのはドイツの大手航空会社・ルフトハンザ航空だ。2020年7月の時点で従業員2万2千人を解雇したが、1年以上前から人員を募集しているものの十分でなく、グランドスタッフやキャビンアテンダント、パイロットなどの数がコロナ前に戻っていない。なお、フランスのエールフランス航空は約1580人、オランダのKLMオランダ航空は約1700人とルフトハンザ航空に比べると解雇した人数は少なく、現在までにルフトハンザ航空ほどの影響はないといえる。 ルフトハンザ航空において最も大きなトラブルはグランドスタッフの不足により、チェックインカウンターで長蛇の列ができることだ。ドイツのハブ空港、フランクフルト空港やミュンヘン空港では人数が元々少ないことに加え、新たな人員を雇っており新人は教育を受けながら仕事を覚えるため時間がかかる。普段なら1時間以内でチェックインができるところ、現在は繁忙期でなくとも倍の2時間かかることも珍しくはないという。ビジネスクラスも同様で、1時間は待つ覚悟が必要とも言われる。 なお、オンラインチェックインをしておけばカウンターに並ぶ必要はないが、荷物を預け入れる場合はチェックインカウンターに並ばなければならず同様に時間がかかる。自分でラベルを貼り、自動で荷物を預けられるカウンターであれば待ち時間が少ないものの、「いつもは誰も並んでいないのにここ数カ月は列ができて30分以上待ったこともある」と言う人もいるほどだ。 >>「外国人お断り」騒動にみる日本の差別意識、顔の小ささやはしの使い方を褒めるのも差別?<< さらにコロナ禍によって空港スタッフも解雇されており、フランクフルト空港やミュンヘン空港ではセキュリティスタッフも不足しているようだ。繁忙期でない現在でも2、3時間待つことが珍しくなく夏に向けてさらなる混雑が予想される。人手が足らないのか長蛇の列ができていても、すべてのゲートが開いていない。 またロストバゲージにも注意が必要だ。日本からヨーロッパ旅行に行く際によく乗り換え空港として利用されるフランクフルト空港では今年に入ってからロストバゲージが多発している。ヨーロッパ在住の日本人は「日本からフランクフルト空港で乗り換えをするフライトで、自分の周りでは10家族中5家族以上がロストバゲージに遭っている」と言う。ロストバゲージの原因は荷物の運搬に人が足らないこと。荷物が届かないまま次の便が出発してしまうこともあり、そのまま荷物の行方が分からなくなるのだ。 日本ならば空港スタッフができるだけ荷物を届けようと努力してくれたり、探してくれるが「ドイツではそんなことはほぼない」そう。運が良ければ数週間たって見つかるということもあるが、「航空会社の専用番号に電話もつながらないし、探すといって探していないことがほとんど。一度、荷物番号を控えてもらっていたのに数日後にもう一度連絡をしたらそのような電話は受けていないと言われた。ロストバゲージしたら見つかる可能性はゼロと思った方がいい」と言う。 そして最も厄介なのはストライキだ。人員が少ないため一人当たりの労働負担が上がっていることもあってルフトハンザ航空や空港スタッフ、空港のセキュリティスタッフや空港を警備会社が昨年後半から頻繁にストライキを行っている。月に1回はドイツ国内のどこかの空港でフライトに影響するストライキが起きているイメージだ。 ここで問題となるのはその時の客としての対応だ。航空会社がストライキをした場合は後日のフライトを振り替えてくれる。だが、例えば空港のセキュリティスタッフがストライキをする場合、セキュリティゲートは開いていないが、航空会社はチェックインできるという状況になっている。 そのため、空港のセキュリティスタッフがストライキをする前、例えばフライトの12時間以上前などにチェックインしなければならない。航空会社は動いているため、たとえセキュリティスタッフがストライキをしていてもチェックインできないのは自己責任となる。前日にチケットを変更してもらうなどの工夫が必要になるだろう。警備会社がストライキをする場合も同様で、ストライキが始まって空港が閉まってしまう前に空港に入るなど工夫が必要だ。 ここまでの大変さがあると利用する側としては呆れて怒りを感じてしまうが、働いている側も苦労しているようである。 海外ニュースサイト『Business Insider』は2022年7月の記事で、ルフトハンザ航空で働く客室乗務員のインタビューを伝えた。これによると「体調が悪い人がいた時のために自宅で待機をすることがあるのだが、これまでは単なる予防措置で電話がかかってこなかったのに、コロナ明けは誰かの体調不良ではなく単なる人員不足で100パーセントの確率で電話がかかってくるとのことだ。 また1泊のスケジュールが2泊に急きょ変更になることもあり「プライベートは存在しなくなった」「これほど大きな航空会社がこのような失敗をするのは間違っている」と指摘していた。また過去にルフトハンザで働いていたことがあっても、一定の訓練を毎年受け直す必要があり、人を雇ったところですぐに現場に出せるわけではないという。 久々の海外に胸を高鳴らせている人も多いだろう。すでにほとんどの人がマスクをしていないヨーロッパだが、コロナ禍の影響は見えないところにまだまだ大きく残っている。海外旅行に行くのなら、ある程度の注意が必要といえるだろう。記事内の引用について「I'm a flight attendant for Lufthansa. Cuts have led to total chaos — and my private life is nonexistent.」(Business Insider)よりhttps://www.businessinsider.com/work-flight-attendant-lufthansa-collapse-travel-chaos-cancellation-delay-airport-2022-6
-
社会 2023年07月18日 06時00分
国民の30%近くが移民のドイツ、差別はないものの深刻な悩みも
日本政府は2023年4月24日、自民党に対し熟練技能を持つ外国人の在留制度「特定技能2号」の資格拡大を検討する方針を示した。これまでの建設業や造船関連業に加え、漁協や航空業の分野などでも特殊技能を持つ外国人を広く受け入れるとし、今後、日本に在留できる外国人が増えることが予想される。 それでも日本の外国人受け入れ体制は欧米諸国に比べてまだまだ整っていない。過去に多くの移民や難民を受け入れてきたドイツは、2015年にシリアなど中東からドイツ人口の約1パーセントに当たる90万人もの難民を受け入れ、昨年もウクライナから90万人の難民を受け入れた。 2019年の時点でドイツでの移民の割合は約26パーセント。対して日本は、法務省の資料から試算すると2020年時点で移民(在留資格を持つ外国人)の割合は約2.37パーセント。受け入れた難民は2019年時点で81人と圧倒的に少ない。なお通常、移民は本人の意思で自国を離れて別の国に移住した人のこと。難民は紛争など自発的でない理由で国を逃れた人々のことをいう。ドイツでは難民は“やむを得ない事情”で国から逃れている人々と思われているため、ボランティアの対応が素早く人々からの助けも手厚い。国も難民のビザ申請を優先させている。 >>車椅子ユーザーのエレベーター問題、ドイツではあり得ない? 原因は国民性か、設備の至らなさか<< ドイツでは移民や難民が身近であることが珍しくはない。母国から察したり、難民が自ら明かしたりして分かることもある。 最近だと近所の人がウクライナ難民を、ホームステイの形で家に住まわせているという状況が学区単位で2、3件、多い地域では10件ほどある。また、学校にウクライナからの難民の生徒が突然来ることも珍しくはないのだ。こうした背景にはドイツでは移民や難民を受け入れる体制が整っていることが挙げられるだろう。難民が大量に押し寄せることが予想されると主要駅には受け入れをスムーズに行うためのセンターが設置され、通訳などのボランティアも大学などを通じて募集されすぐに集まる。さらに今年の2月には移民をより大幅に受け入れるため法律を改正することが決定された。これまでは企業からの招へいがなければ働くためのビザを取得できなかったが、学位やドイツ語能力が一定数あれば最長1年間ドイツに滞在して就職先を探すことができるのだ。 こうした移民や難民を受け入れる窓口を大きくし彼らを多く受け入れることは、ドイツが近年労働者不足で悩んでいるIT産業や医療部門の人材を確保できるというメリットがある。またドイツで深刻になっている少子化解消にもつながり、将来的にドイツ国民一人ひとりの負担を減らすことができるのだ。ドイツ国民は元々移民が多いこともあるが、こういった事情を理解しており、移民に対して嫌悪感を抱きにくくむしろ感謝している面もあるのだろう。 なお、移民の受け入れはEUの中でもドイツが突出して多いが、フランスやスペインなどドイツ周辺国も移民に対しては寛容で、労働者確保や出生率アップのために移民を受け入れている。 一方でニュースにはならないものの、ひっそりとドイツ国民が抱えているデメリットとも言える問題もある。移民や難民が増えたことで当然、小学校や中学校にも移民が来ることになるのだが、言葉や文化の壁でドイツ人の子どもの肩身が狭くなっているというのだ。 ある都心の公立の小学校では移民が多く住んでいる地域ということもあってか、クラスの8割が移民でドイツ語が流暢に話せない子も多いという。11歳の息子を持つ母親は「息子のクラスはトルコ人が多く、教室で聞こえる言葉はほぼトルコ語。ドイツ人が分からない話題も多く、人数的にもドイツ人が圧倒的に少ないので仲間外れのようになっている」と言う。また6歳の娘を持つ別の母親はドイツ語能力の違いからどうしても勉強に差が出てしまうことが悩みだという。「娘のクラスには純粋なドイツ人は1人。ドイツ語ができても問題が解けないという子が多く、友達同士で勉強を教え合い切磋琢磨できない」そうだ。 こういった状況から、どうしても移民が多い公立小学校の地域に通う子どもは私立を選ぶ傾向も多いという。そのため私立への入学希望が殺到し、数年前からウェイティングリストに名前を載せてもらうように手配をせざるを得ず、私立のために学費がかさむという問題もある。現地在住の日本人は「こうした状況になっても移民に対して文句を言う親はあまりいないが、内心、ドイツ国民が損をしていると思っている部分はあるのではないか」と推測する。 移民や難民を受け入れることは人間としての権利を尊重しているという点や国際的な観点からも称賛されるべきだろう。しかしながら、現場では子どもたちがちょっとした負担をしいられる。 わらにもすがる思いでドイツをめざす移民の思いを逆手にとる悪質なブローカーの存在もある。悪質なブローカーはある程度の費用を得ながらトラックに移民を押し込むなどして移民を輸送し、途中で移民を窒息死などで死なせる。そんなニュースが数年前は多く出ていた。またここ最近では移民の奴隷化も問題になっている。海外ニュースサイト『InfoMigrants』は10代前半の若いベトナム人の少年少女が、悪質な人身売買業者によってドイツに送り込まれ、ドイツで最低賃金を遥かに下回る賃金で働かされるケースがあることを紹介している。 ドイツでも問題が出てきている面を見ると、移民や難民の受け入れは簡単ではないだろう。しかし日本の将来を考えた際、移民の受け入れ窓口を広くしていくことは日本にとってもメリットがあるはずだ。記事内の引用について「令和2年6月末現在における在留外国人数について」(法務省)よりhttps://www.moj.go.jp/isa/publications/press/nyuukokukanri04_00018.html「令和元年における難民認定者数等について」(法務省)よりhttps://www.moj.go.jp/isa/publications/press/nyuukokukanri03_00004.html「'Disappeared, run away, dead': How gangs trade Vietnamese children, and people, as goods across Europe」(InfoMigrants)よりhttps://www.infomigrants.net/en/post/29803/disappeared-run-away-dead-how-gangs-trade-vietnamese-children-and-people-as-goods-across-europe
-
社会 2023年07月03日 06時00分
有名観光地を巡る旅はもう古い? 訪日外国人、なぜマニアックな場所が人気に
コロナ禍の水際対策が緩くなり円安の影響も受け、増え続ける外国人観光客。少し前まではアジア系の観光客が多かったが、最近では欧米からの観光客も多く、日本を楽しんでいるようだ。 観光となると日本人の感覚では有名景勝地を回る旅をイメージするが、特に欧米からの外国人観光客は、買い物よりも日本人が知らないようなマニアックな場所を回る人も多い。外国人たちはどのようにして日本での滞在場所を決めているのだろうか。 日本に旅行したことのある、欧米を中心とした外国人に話を聞くと、最近はガイドブックよりも外国人がアップしているYouTube、ネットの情報を頼りにしているという。 >>「外国人お断り」騒動にみる日本の差別意識、顔の小ささやはしの使い方を褒めるのも差別?<< YouTubeでは日本に実際に旅行した外国人YouTuberがVlogをアップしており、そこには日本人でもあまり知られていないような東北地方の洞窟や、トンネルを紹介している様子が映されている。最近では人が多く、有名すぎるとの理由であえて観光名所を避ける外国人が多く、こういったマイナーな場所に風情を感じ実際に訪れているそうだ。 また日本の地方に住む外国人YouTuberも人気で参考にしているようだ。東北地方に住み、主に現地の情報を英語で発信しているイギリス人男性のYouTubeチャンネルには280万人以上の登録者がいて、コメントを見る限りほぼ視聴者は外国人のようだ。 東京に住み、日本の生活や東京のマイナーな場所、駅を英語で紹介しているYouTuberには318万人以上の登録者がいてこちらも人気。コメントはほぼ英語でほとんどが外国人視聴者とみられる。東京だけではなく山形や青森など日本全国の地を散歩し、散歩している人の目線でただ動画を流しているだけの動画にも60万人以上のチャンネル登録者がいて、コメントは英語で埋め尽くされている。 他にも、日本旅行プランを考えるメンバー6000人ほどのFacebookグループで日本のマイナーな観光地について議論されている。海外旅行をする人を主なターゲットにした「カウチサーフィン」も活用されている。 カウチサーフィンとは、本来、無料で旅行者を泊めることができるホストと無料で宿泊したい旅行者をつなぐサイト。だが、ミートアップイベントなどの情報も豊富で「一緒に隠れた東京を探索したい人」を募集したり「スピリチュアルな体験をする旅」の参加者を募ったりしている。現地に住む日本人や外国人のほか、旅行者でも参加可能なものも多い。こういったイベントに参加してリアルな日本を楽しみたいという人も多いようだ。 こうした情報を元に、ガイドブックに頼らない独自の旅行プランを立てる外国人も多い。ドイツから日本に旅行した30代の男性は、自転車をドイツから日本に持ち込み、自転車で日本を回ったそうだ。外国人YouTuberが回っていたルートを主に、気まぐれで予定を変えて東京から関西あたりまで移動した。 男性は「東京など人気観光地の情報はネットですぐに見られるけど、田舎の情報はなかなかない。それ以外の場所を知ることで本当の日本に触れられる」と話す。ヨーロッパからの30代の男女のカップルは日本のホテルは高いからとキャンプ道具を持ち込み、日本を横断した。「日本にはキャンプ場がいくつもあって安全なのもいい。ガイドブックでは見られない場所を自分のSNSに載せると注目度も高くなるしうれしい」そうだ。 1カ月間日本に滞在するという30代のギリシャ人カップルは、四国のマイナーな山を巡るそうだ。YouTubeのショート動画でたまたま出てきた四国の雰囲気に魅了されて旅先を決めた。「実際に自分で足を運んでみたかった」そうで、「東京や大阪も魅力的だけど大都市は外国人だらけで日本にいる気がしないと思う」と話す。 他にも何人かの外国人は、青森にあるキリストの身代わりになって処刑された弟の墓「十代墓」に訪れたとのこと。北海道にある日本一の秘境駅と呼ばれる「小幌(こぼろ)駅」に足を運んだという外国人も複数いる。また廃墟探索も人気で、日本の廃墟を紹介している海外サイトも検索すると多数ヒットする。中でも山梨県にある廃墟となった宿泊施設「SPGハウス山中湖」や高知県にあるレストラン跡「スカイレスト・ニュー室戸」はマニアックな廃墟好きの間で人気が高いようだ。 日本に来る外国人観光客は他の国やアジア圏にも旅行した経験がある人もいるが、特に日本ではマイナーな場所を好むそうだ。日本は観光地以外でも魅力的な場所が多く、都会と田舎では全く雰囲気が違うこと、また観光地以外でも安全で、襲われる心配が皆無で開放的になることも理由という。他の国だと、地元民しかいない場所で買い物をすると場合によっては襲われたり、店でぼったくりに遭う心配があるという。 今後も増え続けることが予想される外国人観光客。彼らは我々日本人以上に日本のことを知ることになるのかもしれない。
-
-
社会 2023年06月26日 06時00分
風邪でもすぐ診てもらえない? ドイツの医療事情、アポが数カ月先ということも
日本では、かぜになればすぐに病院に行くことができ、歯が痛ければすぐに歯科医の予約を取ることができる。しかしドイツでは違うようだ。医療大国とも言われるドイツだが、受診までのハードルは高く、医療事情は日本人から見ると少し不便に思えるかもしれない。 まず、ドイツでは医療機関がHausarztと呼ばれる家庭医、専門医、総合病院と大まかに分かれており、その中で内科、外科、婦人科といった区分がある。かぜを引いたら家庭医の内科医を受診するといったように、何かあればまずは家庭医に相談して、そこから場合によっては内科の専門医や総合病院の内科を紹介してもらう仕組みになっている。 ただ、最初の段階である家庭医を探すのに苦労することが多いのが現状だ。初診の場合は電話をして自分を患者として受け入れてくれるか聞くのだが、今は患者がいっぱいだからと受け入れてくれないことも珍しくない。 >>車椅子ユーザーのエレベーター問題、ドイツではあり得ない? 原因は国民性か、設備の至らなさか<< 日本では、近くのクリニックや評判のいいクリニックを選んで受診することが多い。一方、ドイツでは地域差はあるものの患者が選ぶというより、受け入れてくれるかどうかという部分を優先して家庭医を探すと言ってもいいだろう。子どもの場合は小児科に行くが、小児科の家庭医は住んでいる地域によっては患者がいっぱいということもあり、子どもが生まれる前から探している親も多い。 さらに家庭医を見つけられた場合でも、「かぜ気味だから受診したい」とアポなしで家庭医を訪れ、診てもらえる可能性はゼロではないものの低い。 というのも、基本的にドイツはアポイントメント文化のため、よっぽどでない限りアポがないと追い返される。とはいえ、アポを取ったとしてもすぐに診てもらえるわけではなく、2、3日後、家庭医によっては数カ月後ということもあるのだ。 現地在住者からは「かぜを引いたのに受診できたのが3日後で症状が治っていた」「歯医者のアポが2カ月後で受診時はさらに悪化した」「やけどをしたのに受診する頃には治っていた」という声もある。 このような状況を受け、2019年から状況を改善するための法律が施行された。これまで週に最低20時間だった診療時間を25時間に拡大することが義務付けられるなどしたが、まだまだ不十分であるのが現状だ。 ただ一方で、重症や緊急の場合、また土日でどうしても受診したいが家庭医で診てもらえない場合はアポなしで総合病院に行くことができる。 重症かどうかは自分で判断し総合病院に行くことができ、追い返されることはなく、適切な処置をしてくれる。またドイツは公的健康保険とプライベート保険の2種類があり、プライベート保険の場合は比較的アポが取りやすいという面もある。 ここまで受診のハードルが高いとドイツの医師数に問題があるように思えるが、世界のさまざまなデータを発表している『World Bank Open Data』によるとドイツ国民1000人当たりの医師数は4.4人(2020年)、日本人1000人あたりの医師数は2.5人(2018年)で日本よりも多いのだ。 ではなぜ、ドイツではすぐに受診ができないのか。それは医師でも働き方を限定しているため、無理やり患者を押し込まないアポの入れ方をしていたり、診察時間内にアポが終わるように調整しているためだ。医師も長期休暇を取り、夏の間、1カ月以上休診ということもある。また都市部に医師が集中してバランスが取れていないことも原因だという。都市部は比較的アポが取りやすく、地方に行くとアポを取ることが難しくなる。 こういった状況をドイツに住んでいる人たちはどう思っているのだろうか。とあるドイツ人は「アポがすぐ取れないことは普通だと思っているし、かぜなど小さなことでは滅多に病院に行かないから気にならない」と言う。 ヨーロッパ出身のドイツ在住者も「よほどのことがない限り、家庭医ではなく薬局を頼る。薬局で薬をもらえばいい」と言う。彼らはあまり不便に思っていないようだ。 現地ではあまり不満は多くないようだが、やはり医師にすぐに診てもらえることは安心感がある。比較的早く、さらにアポなしでも病院で診てもらえる日本の医療制度は恵まれているとも言えるかもしれない。記事内の引用について「Physicians (per 1,000 people)」(World Bank Open Data)よりhttps://data.worldbank.org/indicator/SH.MED.PHYS.ZS
-
社会 2023年06月19日 06時00分
アジア人を嘲笑する動画が拡散、イタリアでの差別は顕著? 役所で手荒な対応も、その背景とは
4月にイタリアの電車内で、イタリア人の女子大生3人がアジア系の男性らに対しバカにしたように「ニーハオ」と言う動画がTikTokに投稿され、人種差別だと世界中で物議を醸した。動画はボーイフレンドとその両親とともにイタリアを訪れたパキスタン系アメリカ人の女性が撮影。ボーイフレンドは中国系アメリカ人だったそうだ。 動画には多くの批判コメントが集まり、動画に映っていたイタリア人女性らの大学も判明する事態に。大学側は「事態を把握し、大学の規則によって対応する」との声明を発表している。 イタリア人といえば陽気でフレンドリーなイメージがあり、この動画を見て差別的な面もあるのかとショックを受けた日本人も多いだろう。しかし現地の人から驚きの声は聞こえない。というのも、電車内で「ニーハオ」などとバカにしたように声をかけられるのは「よくあること」(在伊15年以上の日本人)だというのだ。 >>「外国人お断り」騒動にみる日本の差別意識、顔の小ささやはしの使い方を褒めるのも差別?<< 前出の日本人によると、ヨーロッパの中でもイタリアは「特にアジア人に対する差別が顕著」だそうで、「アジア人というよりアジア系は中国人とひとくくりにされて差別をされる傾向にある」という。ただ、悪気があるものもあれば「ノリのように意味もなく言ったり、コミュニケーションを取りたい気持ちの裏返しで言うこともある」そうだ。また差別の意識は全くなく、言葉を知っているとアピールしたいがために、どちらかというとむしろ好意を持った上で「ニーハオ」などと言うこともある。 一方で、悪意がある場合はあからさまに差別してくることもある。現地に住んで10年の日本人女性はイタリア語ができるにもかかわらず、「あなたのイタリア語は分からないから」と市役所で対応され、日本人だと言っても「中国人は中国語で対応できる人を見つけて」と言われたそうだ。また在住5年の日本人女性はレストランで勝手に食べ物を出された際の出来事について話している。頼んでいない食べ物をサービスのような雰囲気で出されるが、食べると後に請求が来ることを知っていたためイタリア語で「頼んでいないから下げて」と言うと、つり目のポーズをされた。彼女たちいわく、差別はイタリア人男性よりイタリア人女性の方があからさまな傾向にあるという。また地域によってもかなり差があり、地方では差別が分かりやすい。 ただ、差別の背景には事情があるのではないかと分析もしている。前出の在伊15年以上の日本人が身近なイタリア人らに聞くと、イタリア人が主に中国人を含むアジア人に迷惑をかけられていると感じている部分もあり、それが差別につながっているとも考えられるそうだ。 現在も少しずつ観光客が戻ってきているが、コロナ禍前は観光地でハネムーンフォトを撮影する中国人が特に多く、撮影中に通行を止められじゃまだと感じるという。さらに中国人の爆買いもこっけいに見えるそう。イタリア人は質やデザインを重視した上で品が良ければブランド品を買うそうで、ブランドにこだわる中国人を「少しさげすんで見ているかもしれない」と言う。ただ一方で、観光客を相手にしている側は、イタリア人の何倍も多くのお金を費やしてくれるため、ハネムーンフォトを撮影し、爆買いしてくれる中国人の存在をありがたがっている様子だ。 さらにイタリアではここ5、6年ほどでレストランや店がつぶれている。そんな店を金持ちの中国人が買い取るそうで、「札束を持って、売ってくれといきなり店に来る中国人もいるらしい。中国人に乗っ取られたと感じて悪い印象を持つ人も少なくはない」というのだ。 とはいえ、差別は決して許されることではない。アジア人に対しての差別は我々日本人にとっても不愉快なことだ。今回の動画がきっかけに差別について少しでも考え直す人が増えるといいだろう。
-
-
社会 2023年06月12日 06時00分
電車の遅延で文句はありえない? 時間厳守のドイツ、交通事情はアバウトな理由
新幹線や電車など、公共交通機関の正確さが称賛されることの多い日本。しかし先日の大雨では東海道新幹線が運行を見合わせ、多くの人に影響が出た。状況が状況だけに理解を示す人が多かった一方で、車内や駅構内にとどまらなければならない人もおり、いつ運転が再開するか分からないというアナウンスには「野宿しろということか」と怒りをあらわにした人がいたというニュースもあった。 新幹線や電車が正確に来ることが普通な日本では、遅延や運休が人々に大きな影響を与えるようだ。しかしここまで新幹線や電車が正確な国は日本くらいであろう。 “時間に正確”というイメージを持たれている国の一つがドイツであると思うが、実際、ドイツ人はとても時間に正確だ。9時に待ち合わせをしたならば、9時5分前でも9時過ぎでもなくきちんと9時に来る人が多いのだ。家で待ち合わせをした場合も9時きっちりにチャイムが鳴る。 >>“日本人には優しい”は本当? ドイツ人がアジア人を一括りにせず特別視する理由とは<< ただし交通公共機関に関しては別だ。電車が遅れるのは日常茶飯事で5分どころか20分近く、もしくはそれ以上、予告なしに遅れることがある。そういったことが原因で遅延が起こり、ホームが変わることもしばしばで、ドイツを中心に運行されている高速列車ICE(日本でいう新幹線)が出発数分前にホームが変更になることはかなりの頻度で、遅延も多い。遅延するだけならまだしも「10分遅れる」というアナウンスが入ったのちに「あと10分遅れる」「あと20分遅れる」と次々と変更になり、とにかく来るまで待つしかない状況だ。 遅れる原因の多くは列車のダイヤがアバウトであることだ。前の電車がホームに遅れて到着し、次の電車が前の電車の出発を待つことになり、さらに次の電車も遅れていくという、電車の渋滞が起きる。それが重なり最終的には大きな遅延になっていくのだ。また技術的な問題も挙げられる。重大ではないものの念のため安全のために電車が一時的に止まることがあり遅延につながる。コロナ禍以降は特に人員が削減されており、修理や点検に時間がかかる。まれではあるが動物が線路に侵入したり、雪で徐行運転を余儀なくされることも原因にある。なお、ドイツの公共交通機関はほぼ全て「ドイツ鉄道」が運営しているが、民営化されたものの株式の100パーセントを政府が持つ、実質政府保有の会社である。 そんな状況であるのに人々が文句を言うのかといえばノーである。遅延はドイツ鉄道のHPやアプリケーションで告知されるほか、駅構内のアナウンスや電光掲示板を確認すれば分かるのだが、大幅な遅延でも駅員が大きな声でアナウンスしたり細かな情報を逐一伝えることはない。いくつかの方法で情報を共有しているのだから、全ては客側の自己責任。天候が関係している時は、天気予報を見なかった客側にも責任があるとされる。 ドイツでは台風などは滅多に来ないため、日本のように6時間近く車内に閉じ込められることはないものの、2、3時間車内に閉じ込められるのは珍しくない。一部で大雪などもあるが原因のほとんどは技術的な問題。その場合、電車が止まって「原因が不明でいつ動くか分からない」と車内アナウンスが入り、とにかく待つしかなくなるのだ。 そんな状況になっても客が文句を言うことはない。多少イライラすることはあるかもしれないが「あ、そうなんだ」とすんなり受け入れ、情報をとにかく待つという人が多いようだ。在独5年の日本人によると「最初は運転再開まで1時間くらいかかると言われて、その後さらに1時間、電中に閉じ込められたことがあったが、誰も文句を言わなかった」と語る。万一、車掌などに文句を言おうものなら「“自分たちだって分からない、電車を整備した人のせいだ”と、それ以上の剣幕で怒られるだろう」と話していた。別の在独7年の日本人は、何時間か待った末に電車が動かないから、途中で線路に降ろされ次の駅まで歩くように言われたことがあったそう。そんな時もほとんどの人が「ああ、そうか」といったように電車を降り、近くの最寄り駅まで歩いたという。なお、そういったことは頻繁に起こるため「そもそも大きなニュースにはならない」そうだ。 ただそんなドイツでもドイツ鉄道側は遅延をなくすための努力はしており、2022年までに長距離電車の82パーセント時間通りに到着させるという目標を掲げた。ただ実行できず、目標達成期間を2025年までに延期。ちなみに2022年の長距離電車の定刻到着率は約62パーセントとのことだが、ドイツ鉄道では6分未満の遅れは遅延と見なさないと定義しており、実際にはもっと多くの電車が遅延している。なお、日本の東海道新幹線では2021年の1列車当たり遅延時間は自然災害による遅延も含んで0.9分(54秒)だった。 目標期間を伸ばすなど、なかなか改善が見られないドイツの遅延問題だが、文句を言う人が少ないのは、人々が、当人の責任でないことは当人を責めず、仕方ないとあっさり受け入れられる面があることだ。前出の在独日本人は、ドイツ企業での出勤初日に大幅な遅延に遭い上司に何度も深く謝罪をしたら、むしろ謝罪している姿を不思議がられ「よくあることだから」で終わったという。 別の日にはドイツ人の同僚が、別のルートはいくらでもあるにもかかわらず、「駅まで行くバスが来ないから」と会社に来なかったそうだ。その時も大きな問題にはならなかった。ドイツでは公共交通機関の遅れは公共交通機関側の問題で、本人は悪くないという風潮があり、さらにほとんどの会社が出勤時間にこだわらない。9時出勤で多少遅れても仕事をきちんとこなしていればいいと見なされる。「日本では天候のせいとはいえ遅延があれば会社に迷惑がかかると考えがちだが、ドイツではそれがない。乗客にストレスがかかりにくく文句を言うまでに至らないのかも」と分析した。 日本での今回の大雨での遅延で不満を漏らした人に対しては批判の声もあったが、不満が出る背景には日本人の会社や周りの人に迷惑をかけてはならないという日本人独自の性質もあるのかもしれない。記事内の引用について「ファクトシート2022(Fact Sheets 2022)JR東海」https://company.jr-central.co.jp/ir/factsheets/_pdf/factsheets2022-02-01.pdf
-
社会 2023年05月29日 06時00分
日本でSDGsキャンペーンが盛んなワケ 浸透していないドイツ、達成度が高い?
最近、日本で連日のように耳にする「SDGs」。持続可能な開発目標のことで、具体的には世界の環境問題や差別、貧困、人権問題を世界で一丸となって2030年までに解決していこうという目標を掲げている。日本では昨年あたりから人気タレントが企業やメディアとコラボしてSDGsを訴える活動が目を引き、5月にはTBSテレビが「地球を笑顔にするWEEK」と称してSDGsについて考えるキャンペーンを開催。現在も日本テレビが「Good For the Planet」と称して6月4日までSDGsを訴えるキャンペーンを実施するなど、引き続き注目度の高さがうかがえる。ただ、他国では環境に配慮した活動が注目されているものの、とりわけSDGsをプッシュすることはあまりないようだ。 そもそも、SDGsは最近始まったものではなく、2015年9月の国連サミットで採択された。8年弱たつわけだが2022年に国際的研究組織「SDSN」が発表した達成度ランキングで日本は19位。1位はフィンランドで以下デンマーク、スウェーデン、ノルウェーと北欧が占め、5位にオーストリア、6位にドイツと欧州が続く。 中でも環境大国と呼ばれるドイツは、2021年は同ランキングで4位という結果で達成率が高い国とされている。ドイツでは何か特別な活動をしているのだろうか。 >>男女裸で同じサウナが常識のドイツ、ジェンダーレストイレには反対派が多いワケ<< ドイツでは2018〜2019年ごろから多くの企業がSDGsについて発信し始めた。ドイツ大手のチョコレートメーカー「リッタースポーツ」は2025年までの目標として製造の際の電力節約やパッケージを再生可能なものにするなど、環境に配慮した方法でチョコレートを製造することを発表している。また自動車メーカーの「フォルクスワーゲン」は2030年までに乗用車と小型商用車の二酸化炭素排出量を車両1台あたり30パーセント削減する目標を発表するなど、大手をはじめとした多くの企業がよりSDGsに沿った取り組みをしているのだ。 一方で、企業がHPなどで告知しているもののSDGs達成に向けた取り組みを大々的にアピールしていない。ドイツ在住者の多くも実はSDGsという言葉を知らない人ばかりなのだ。在独日本人いわく「自分の周りの20人くらいの20〜40歳代の男女に聞いたが、SDGsというワードを全員が知らなかった」と話す。ドイツでは日本のようにテレビなどのメディアもSDGsをわざわざ取り上げることがあまりなく「はやりのように扱われていない」そうで、知らなくても当然なのかもしれない。 ではなぜ、SDGsという言葉があまり広まっていないのか。それはドイツではSDGsにのっとったような環境に配慮する活動がSDGs採択前から続き、今さら言うまでもなくドイツ在住者にとっては普通のことからだ。 例えば、SDGsの取り組みの一つとしてフェアトレード(公正な貿易)という、発展途上国で作られる原料や製品を適正な価格で継続的に購入するという仕組みがある。フェアトレードは特にチョコレート製造の際、カカオ生産国などで児童を安価で働かせることを防ぐことにつながるのだが、ドイツではすでに5年以上前から一般的なスーパーで見かけるほとんどのチョコレートやコーヒーにフェアトレードマークが付けられているのだ。 また数十年近く前から都心、地方問わず街の至るところに大きな寄付ボックスが置かれていて、貧困地域などに寄付するための洋服などが入れられるようになっている。ボックスには子どもの洋服から大人の洋服、靴などが入れられ、人々は着古したり、サイズが合わなくなった洋服をここに入れるのだ。寄付だけではなく、いらなくなった洋服や子どものおもちゃを売るフリーマーケットも週末となれば街の至るところで行われている。フリーマーケットは趣味で行い、収益を寄付に回す人も珍しくない。 さらにレジ袋は2016年から自主ルールにより有料化される前からレジ袋を持参することが当たり前になっていたが、現在はレジ袋がプラスチック製でなく紙製になっている。食品ロス削減を目的とし、パン屋やスーパーマーケットなどから廃棄食品を安値で購入できるアプリも浸透し、2020年ごろから利用者が増えているようだ。 ドイツではSDGsをうたわなくともエコに対する意識は高い。ヨーロッパ市場の情報を発信しているサイト『AJT』の2023年3月の記事や、ドイツの購買行動を分析するサイト『GfK』の2023年2月の記事では、ドイツ国民の70パーセントが環境問題を深刻に捉えており、2021年からの過去5年間でドイツが持続可能な購買行動に向け、最も大きな変化を遂げた国であると伝えている。調査対象者(人数は不明)の31パーセントが商品購入の際に、環境・社会・経済面で持続可能商品のことを指す、サステナブルな商品を購入すると回答しているのだ。具体的にはリサイクル素材やオーガニックコットンを使用したTシャツやタオル、CO2の排出を抑えるなど環境に配慮して作られた食品などが挙げられる。価格はサステナブルでないものと変わらない、もしくは少し高い程度だが、サステナブル商品とそうでないものがあれば、サステナブルな商品を率先して選ぶそうだ。 またドイツのコンサルティング会社『PwC』が18〜25歳のドイツ国民1000人を対象に調査したところ、調査対象者の約65パーセントが買い物をする際にサステナブルな商品を意識すると答えているという。同記事ではドイツのZ世代にとって洋服や化粧品を買う際に商品が持続可能であるかは重要なことであると伝えている。 日本ではSDGsを広めようと政府やメディアが主体となって力を入れている印象だ。しかしドイツのように、力を入れずとも国民一人ひとりが当たり前のように意識するようになって初めてSDGsが現実的に達成に向かっていくのかもしれない。記事内の引用について「Going green in Germany: How sustainable brands can flourish in a growing eco-market」(AJT)よりhttps://www.teamajt.com/going-green-in-germany-how-sustainable-brands-can-flourish-in-a-growing-eco-market/「Bleibt nachhaltiger Konsum 2023 relevant?」(GfK)よりhttps://www.gfk.com/de/presse/bleibt-nachhaltiger-konsum-2023-relevant「Die Gen Z legt Wert auf Nachhaltigkeit beim Einkauf – und bei der Bundestagswahl」(PwC)よりhttps://www.pwc.de/de/pressemitteilungen/2021/die-gen-z-legt-wert-auf-nachhaltigkeit-beim-einkauf-und-bei-der-bundestagswahl.html
-
社会 2023年05月15日 06時00分
数年前に昆虫食が注目されたドイツ、現在の流通は? 昆虫小麦を確認する客も多数
今、世間の注目が集まっている昆虫食。日本国内でも10年以上前から研究されていたが、パンメーカーの「Pasco」が食用コオロギパウダーを使用したパンやバウムクーヘンを販売。徳島の県立高校もコオロギパウダーを使った給食を提供するなどし、ここにきてさらに昆虫食が議論の的となっている。 そもそも昆虫食は、気候変動や世界全体の人口増加で今後、タンパク質不足が予想されることから注目され始めた。大量のタンパク質を確保するためには豚や牛などの家畜を多く飼育しなければならないが、豚や牛などの家畜は飼育過程で大量の温室効果ガスを排出し、大量の水が必要であるため、環境への負担が少ない昆虫食が重要とされ始めたのだ。昆虫食には魚や肉の3倍以上のタンパク質が含まれていると言われている。一方で、アレルギー反応を起こす可能性があるというデメリットもある。 そんな昆虫食、海外ではすでに話題になっており、ドイツでは2020年ごろ特に大きな話題を呼んでいた。当時は面白さもあって、昆虫がそのまま入ったキャンディや、パッケージに大きくコオロギのイラストが描かれたハンバーグがスーパーマーケットなどの店頭で目を引き、怖いもの見たさで購入した人もいたようだ。その後2021年からはミールワームという幼虫やトノサマバッタを加工されたものが食品として正式に認可され、2023年5月からはさらにヨーロッパイエコオロギやトウモロコシハムシというカブトムシの一種が認可されている。認可された昆虫は菓子やパン、シリアルに入れることが可能。昆虫が入った商品は成分リストに掲載される必要があり、消費者は成分リストから昆虫が入っているか判断できる。 >>男女裸で同じサウナが常識のドイツ、ジェンダーレストイレには反対派が多いワケ<< 昆虫食を認めて3年弱がたったドイツ。スーパーでも昆虫入りの食品を見かける機会が多くなると当時は予想されたが、実際のところ、現在ドイツ人にとって昆虫食はどれほど身近になっているのだろうか。昆虫食が話題になった時はそれなりに大手のスーパーマーケットで昆虫入りのパスタやソーセージを見かけたが、現在一般的なスーパーで見かけることはほぼない。現地のドイツ人は「昆虫食入りのドッグフードが出てきて種類も増えているが、専門店やネットで買わない限り昆虫食を手に入れることはできない」と話す。 昆虫食が多く出回らない最大の理由は、昆虫食を食べなくても食料には困らないこと、さらに昆虫食を毛嫌いしている人が多くまだ受け入れられていないこともあるだろう。ドイツのニュースサイト『DW』は2023年1月の記事で、ドイツ環境庁が2020年に発表した報告書でドイツ人の約80パーセントが昆虫食に嫌悪感を抱いていると報じている。 またドイツのニュースサイト『ARD Mediathek』は、現地のパン屋を取材。多くの客が「パンに昆虫入りの小麦が使われているか」を確認すると伝えている。スーパーマーケットにある商品は成分表を確認できるが、店頭で売られているパンは成分表が表示されていない。消費者は心配で、わざわざ確認するそうだ。こういった手間を省くため、最近では「当店では昆虫入りの小麦を使用していません」と張り紙をするパン屋も出てきている。 一方で一定数、受け入れる人はおり、積極的に昆虫食を勧めようとしている。ドイツはヨーロッパの中でもベジタリアンが多い国であるが、多くのベジタリアンが“家畜を食べずに温暖化を防ぐ”という環境保護の観点でベジタリアンになっている。そのため昆虫食を支持して、地方の公民館などで昆虫食の重要性を訴えるセミナーなどを定期的に開催しているのだ。 しかしながら日本より数年昆虫食が早く注目されたドイツでも昆虫食はまだまだすんなりと受け入れられないばかりか、嫌悪感を抱かれているほどだ。今後、日本でも昆虫入りの食品が多く出回る可能性はあるが、人々の身近な食品になるのはまだ遠い先の未来かもしれない。記事内の引用について「Insects on the menu as EU approves two for human consumption」(DW)よりhttps://www.dw.com/en/eu-insects-climate-change/a-64503440「Kein Insektenmehl im Brot」(ARD Mediathek)よりhttps://www.ardmediathek.de/video/abendschau/kein-insektenmehl-im-brot/br-fernsehen/Y3JpZDovL2JyLmRlL3ZpZGVvLzYxYzFiNTljLTM1NjAtNGM2Yi04NTY5LWIyYTRjMDhlOTIyMQ
-
社会 2023年05月08日 06時00分
ジャニー氏の性加害、BBCが報じたワケ 子ども番組司会者の性的事件隠蔽の過去が影響?
故ジャニー喜多川氏の性的加害疑惑をイギリスの公共放送『BBC』が取り上げ、日本のネット上では「イギリスのBBCは日本みたいに忖度しない」「海外イギリスBBCが先行してジャニーズの闇に斬り込んだ」といった声が上がり、海外のメディアが踏み込んだ報道をしたことを称賛する声が多い。 一方、事件を報じた現地イギリスではジャニー氏の事件に対する議論より、別の事件を思い出す人が多かったようだ。それはイギリスのテレビ司会者で慈善活動家であったジミー・サヴィル氏の性犯罪事件。イギリス在住とみられる人々はTwitterで「ジャニーは日本のジミー・サヴィル」「ジミー・サヴィルについては話題にしてはいけない。吐き気がするだけだ」「彼は本物の悪」などとつぶやき、大きなトラウマを抱えているかのような反応を見せていた。 それほどまでに拒絶されているジミー・サヴィル氏とは一体どのような人物なのだろうか。サヴィル氏は1975年から1994年までBBCで放送されていたイギリスの人気子ども番組『ジムにおまかせ』の司会を務めていた人物。同番組は少年少女が会いたいという有名人に会わせるなど、少年少女たちの夢をかなえる番組で、サヴィル氏は子どもたちの憧れ的存在であった。なお、サヴィル氏は2011年に84歳で死去している。 >>ニュース番組の芸能人コメンテーターは変? 海外では「分からないなら見るな」、専門家が淡々と説明する国も<< 死後、2013年に国民を驚かせる衝撃的な事件が明らかになった。同年にイギリス警察が提出した捜査報告書によると、サヴィル氏は子ども番組で司会者を務めていた当時、出演者の少年少女らに楽屋で性的暴行を加えていたというのだ。被害者は少なくとも72人いて、最年少は当時8歳の少年だったそう。ただ事件が発覚したのは死後で、生前に逮捕されることはなかった。警察が捜査するきっかけになったのもサヴィル氏の死後で、当時10代だった複数の女性が性的暴行を受けたと証言したことだった。 さらに捜査を進めると、サヴィル氏はボランティアスタッフとして働いていた国営病院施設でも性的暴行を行っていたことが明らかに。施設の患者少なくとも103人に性的暴行を加え、被害者は5歳から75歳だった。さらにサヴィル氏は死体から義眼を取って指輪を作り、霊安室で死体と性行為もしていたそうだ。 事件が認められたのは死後だったが、それまで疑惑がなかったわけではない。1978年には、とあるパンクロッカーがサヴィル氏の行為についてBBCのインタビューで指摘したのだが、反感を買ってかBBCを出入り禁止になったそうだ。また事件を取材しようとしていたスタッフがBBCから解雇されることもあった。この背景にはボランティア活動や寄付金集めなどの功績が認められ、サヴィル氏がイギリスの王室や首相らと良好な関係を築いていたこともあるだろう。生前は国宝級の人物ともてはやされていた。事件発覚直後も、BBCは犯行に関する放送をとりやめイギリス国内で批判の声が上がっていた。その後、批判の声を受けてか犯行を報じるようになった。報道の中では、他のメディアと同じように当時の出来事やサヴィル氏の犯行を細かく伝えたほか、当時のBBCの幹部が犯行を「おそらく認識していた」とはっきりと伝えていた。 こうした状況を経験しているイギリス国民はジャニー氏に関する報道を冷静にみているようだ。Twitterではイギリスの人とみられる人たちが「サヴィル氏の犯罪を隠蔽したメディア(BBC)がジャニー氏について報じるとは非常に皮肉」「イギリスだってサヴィル氏の犯罪を彼の死から1年後まで隠蔽した」「改めてサヴィル氏についても知られるべき」と指摘している。 ただ、サヴィル氏の一件がきっかけで芸能界での性的虐待が見直されるようになったことも事実。性的暴行が警察の報告によって認められてから、芸能界における性的虐待に関する大規模捜査が行われ、1950年代後半からBBCの子ども番組への出演などで人気を集めたロルフ・ハリス氏が2013年に逮捕されている。ハリス氏は1960年代から80年代にかけて未成年の少女に対して不適切な行為をしていたことが明らかになり、未成年の少女4人に対する11件の暴行で2014年に有罪が言い渡された。またロック歌手のゲイリー・グリッターも芸能人という立場を利用して未成年の男女に性的暴行を加えていたことが明らかになり2012年に逮捕。2015年2月に有罪が確定している。 サヴィル氏のことは思い出したくもないという人もいるが、今回BBCがジャニー氏の件をあえて報じたのは、事件を隠蔽しBBCに在籍していた優秀な記者がここ数年で別のメディアに移り、別メディアでサヴィル氏について報じるようになったことも影響しているかもしれない。結果的にBBCは優秀な記者を失ったため、隠蔽したことを引き合いに出されるリスクがあってもジャニー氏の疑惑を報じたのだろう。公平な立場で報道をする機関であることを世間にアピールするとともに内部の記者たちに示すという面でも、意味のあることだったのだろう。 これまでうわさされていたものの、テレビなどで大きく報じられることのなかったジャニー氏の疑惑。取材したBBCには日本から称賛の声が上がる一方で、イギリスでは素直に称賛するわけにはならない事情があるようだ。
-
-
社会 2023年04月24日 06時00分
男女裸で同じサウナが常識のドイツ、ジェンダーレストイレには反対派が多いワケ
今、日本で話題になっているジェンダーレストイレ。特に新宿・歌舞伎町にオープンした複合高層ビル「東急歌舞伎町タワー」内にジェンダーレストイレ、いわゆる男女共用トイレが設置されて物議を醸している。ジェンダーレストイレは性別違和を持つ人や異性の親子連れ、介護が必要な人に有益な一方で、安全面を懸念する声も多い。Twitter上では「女性の安全を脅かす」「あんな治安の場所であんなトイレあったら中で誰が何してるか分からなくて使いたくもない」といった声が上がっている。 では他国はどうなのだろうか。ドイツではサウナに男女が裸で入るなどジェンダーレスが進んでいる国の一つと言えるかもしれない。ドイツのサウナは男女共用、ともに裸で入るのが基本で、サウナに入ると全員が真っ裸で隠すことなく座っている。 そもそもドイツではサウナの伝統のようなものがある。一説によると、2000年ほど前のサウナでは、健康とリラクゼーションのために男女が分かれることなく裸で入ることが義務付けられていて、この習わしが現在まで伝わっているそうだ。またドイツのサウナは、水着で入る温泉施設やプールに設置されていることが多い。水着のまま入ると水着についた水が、木でできたサウナの椅子に落ち木材が劣化する、機能面の問題もある。これらの理由でドイツでは、大半のサウナのドアに「サウナには裸で入ってください」と張り紙が付けられている。 >>車椅子ユーザーのエレベーター問題、ドイツではあり得ない? 原因は国民性か、設備の至らなさか<< とはいえ、男女が一緒に裸でサウナに入ることにドイツ人は抵抗がないのか。答えはNOだ。ドイツ人男性に話を聞くと、サウナは心を休める場所だと言い「他人とおしゃべりもしない」そう。そのため「マナーでもあるが、サウナは一人でリラックス時間を楽しむ場所。そもそも人の体をまじまじと見ようと思わない」と言う。また別の30代男性は「サウナで見る異性の体はただの体。性的なものに思えない」と話し、別の20代女性は「サウナに水着で入る方が違和感。サウナで性的な目で見られると考える方がいやらしい」と話していた。ドイツのサウナでトラブルがあったという話はほとんどない。 そんなドイツでもトイレとなると話は別だ。ジェンダーレストイレについては反対派の人が多く「治安を考えたらトイレが男女共用なんてあり得ない」「男女が入れるトイレなんて何が起こるかわからない」とドイツ人は口々に話す。また、LGBTQの当事者である男性は「男女共用トイレは差別と区別の混同だ。共用トイレを嫌がる人がいたらかえってLGBTQの肩身が狭くなるだけ」と指摘し、別のLGBTQの男性は「ジェンダーレスをアピールするために共用トイレは必要ない」ときっぱり話す。 実際、ドイツでは小さな飲食店など一部ではトイレが男女共用になっているものの、ジェンダーレストイレはほとんど見かけず、男女別になっていることがほとんどだ。 ただ、ドイツでもジェンダーレストイレの取り組みがないわけではない。ただし、東急歌舞伎町タワーのように女性トイレをなくしてジェンダーレストイレを設置するのではなく(東急歌舞伎町タワーにも別の階には女性専用トイレがある)、男性トイレ、女性トイレに加えて3つ目のトイレとして共用トイレを設置する取り組みがほとんど。ベルリンではとある男女の公共トイレそれぞれに小便器が設置された。 トイレを男女で分けず、完全なジェンダーレスにすることに関しては、受け入れる人はいるものの、否定的な反応を示すメディアも多い。ネット上でも「男女の境界線までなくすのは間違っている」「コストもかかる」という反対の声が多く、「いきなり完全なジェンダーレストイレに入るのは抵抗がある。子どもの頃から教育を受け、慣れさせる必要がある。まずは小学校のトイレにジェンダーレストイレを増やすことから始めるべき」と教育から見直すことを指摘する声もある。 ジェンダーレスを考えることは決して悪いことではなく、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念であり“誰一人取り残さない”ことを考えれば必要なものであるといえよう。ただし助けられる人がいる一方で不便に感じる人も出てくるのは確かだ。バランスを考えながら、できるだけ多くの人の理解を得られるように進めていくべきだろう。
-
社会
海外旅行先から帰国できない可能性も? ヨーロッパの空港で起こっている大トラブル
2023年07月24日 07時00分
-
社会
国民の30%近くが移民のドイツ、差別はないものの深刻な悩みも
2023年07月18日 06時00分
-
社会
有名観光地を巡る旅はもう古い? 訪日外国人、なぜマニアックな場所が人気に
2023年07月03日 06時00分
-
社会
風邪でもすぐ診てもらえない? ドイツの医療事情、アポが数カ月先ということも
2023年06月26日 06時00分
-
社会
アジア人を嘲笑する動画が拡散、イタリアでの差別は顕著? 役所で手荒な対応も、その背景とは
2023年06月19日 06時00分
-
社会
電車の遅延で文句はありえない? 時間厳守のドイツ、交通事情はアバウトな理由
2023年06月12日 06時00分
-
社会
日本でSDGsキャンペーンが盛んなワケ 浸透していないドイツ、達成度が高い?
2023年05月29日 06時00分
-
社会
数年前に昆虫食が注目されたドイツ、現在の流通は? 昆虫小麦を確認する客も多数
2023年05月15日 06時00分
-
社会
ジャニー氏の性加害、BBCが報じたワケ 子ども番組司会者の性的事件隠蔽の過去が影響?
2023年05月08日 06時00分
-
社会
男女裸で同じサウナが常識のドイツ、ジェンダーレストイレには反対派が多いワケ
2023年04月24日 06時00分
-
社会
「外国人お断り」騒動にみる日本の差別意識、顔の小ささやはしの使い方を褒めるのも差別?
2023年04月10日 06時00分
-
社会
車椅子ユーザーのエレベーター問題、ドイツではあり得ない? 原因は国民性か、設備の至らなさか
2023年03月27日 06時00分
-
社会
子連れお断りの店問題、海外では意外な反応も テーブル片付け代、叫び声に追加料金の店も
2023年02月27日 06時00分
-
社会
海外でも「スシテロリズム」と各国で報道 回転寿司騒動、「日本は衛生面に過度に反応」との指摘も
2023年02月13日 06時00分
-
社会
W杯でも話題?「日本人はなぜ歯並びを直さない」 海外では育ちの良さを表す指標、就職で不利になることも
2023年01月30日 06時00分
-
社会
東京都の5000円は足りない? ドイツ、出生率アップの背景 物価高を受けて児童手当増額も決定
2023年01月16日 06時00分
-
社会
W杯、ドイツ元サッカー選手の日本人侮辱発言が物議 “三苫の1mm”が差別問題に発展
2022年12月10日 06時00分
-
社会
W杯、日本がドイツに勝利 現地では「日本なんかに負けた」の声、 人権問題が原因と指摘も?
2022年11月26日 06時00分
-
社会
大学無料のドイツ、学生は交通費も無料に 一方で”偽の学生”が増える欠点も
2022年11月14日 06時00分
特集
-
少年隊・錦織、東山ジャニーズ新社長就任に意味深投稿? 植草とのYouTubeもストップ、現在の活動は
芸能ネタ
2023年09月18日 12時00分
-
ジャニーズ最大のタブー? 嵐メンバー4人と“男女の仲”報道、セクシー女優の死【芸能界、別れた二人の真相】
芸能ネタ
2023年09月17日 12時00分
-
-
Snow Man向井、ジャニー氏お小遣い秘話が拡散? グループ不仲説の真相は<実は不仲?【犬猿の仲】の有名人>
芸能ネタ
2023年09月16日 12時00分
-
一転しジャニーズ契約継続なし、モス広告Snow Manの顔を紙で隠した画像が拡散「イジメ」「涙出てきた」ファン怒り
芸能ニュース
2023年09月13日 18時00分
-
株上げた井ノ原快彦、年下に嫌われていた? 森田剛から「嫌い」緊張関係続く<芸能界【犬猿の仲】の有名人>
芸能ネタ
2023年09月10日 17時00分