まず、ドイツでは医療機関がHausarztと呼ばれる家庭医、専門医、総合病院と大まかに分かれており、その中で内科、外科、婦人科といった区分がある。かぜを引いたら家庭医の内科医を受診するといったように、何かあればまずは家庭医に相談して、そこから場合によっては内科の専門医や総合病院の内科を紹介してもらう仕組みになっている。
ただ、最初の段階である家庭医を探すのに苦労することが多いのが現状だ。初診の場合は電話をして自分を患者として受け入れてくれるか聞くのだが、今は患者がいっぱいだからと受け入れてくれないことも珍しくない。
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日本では、近くのクリニックや評判のいいクリニックを選んで受診することが多い。一方、ドイツでは地域差はあるものの患者が選ぶというより、受け入れてくれるかどうかという部分を優先して家庭医を探すと言ってもいいだろう。子どもの場合は小児科に行くが、小児科の家庭医は住んでいる地域によっては患者がいっぱいということもあり、子どもが生まれる前から探している親も多い。
さらに家庭医を見つけられた場合でも、「かぜ気味だから受診したい」とアポなしで家庭医を訪れ、診てもらえる可能性はゼロではないものの低い。
というのも、基本的にドイツはアポイントメント文化のため、よっぽどでない限りアポがないと追い返される。とはいえ、アポを取ったとしてもすぐに診てもらえるわけではなく、2、3日後、家庭医によっては数カ月後ということもあるのだ。
現地在住者からは「かぜを引いたのに受診できたのが3日後で症状が治っていた」「歯医者のアポが2カ月後で受診時はさらに悪化した」「やけどをしたのに受診する頃には治っていた」という声もある。
このような状況を受け、2019年から状況を改善するための法律が施行された。これまで週に最低20時間だった診療時間を25時間に拡大することが義務付けられるなどしたが、まだまだ不十分であるのが現状だ。
ただ一方で、重症や緊急の場合、また土日でどうしても受診したいが家庭医で診てもらえない場合はアポなしで総合病院に行くことができる。
重症かどうかは自分で判断し総合病院に行くことができ、追い返されることはなく、適切な処置をしてくれる。またドイツは公的健康保険とプライベート保険の2種類があり、プライベート保険の場合は比較的アポが取りやすいという面もある。
ここまで受診のハードルが高いとドイツの医師数に問題があるように思えるが、世界のさまざまなデータを発表している『World Bank Open Data』によるとドイツ国民1000人当たりの医師数は4.4人(2020年)、日本人1000人あたりの医師数は2.5人(2018年)で日本よりも多いのだ。
ではなぜ、ドイツではすぐに受診ができないのか。それは医師でも働き方を限定しているため、無理やり患者を押し込まないアポの入れ方をしていたり、診察時間内にアポが終わるように調整しているためだ。医師も長期休暇を取り、夏の間、1カ月以上休診ということもある。また都市部に医師が集中してバランスが取れていないことも原因だという。都市部は比較的アポが取りやすく、地方に行くとアポを取ることが難しくなる。
こういった状況をドイツに住んでいる人たちはどう思っているのだろうか。とあるドイツ人は「アポがすぐ取れないことは普通だと思っているし、かぜなど小さなことでは滅多に病院に行かないから気にならない」と言う。
ヨーロッパ出身のドイツ在住者も「よほどのことがない限り、家庭医ではなく薬局を頼る。薬局で薬をもらえばいい」と言う。彼らはあまり不便に思っていないようだ。
現地ではあまり不満は多くないようだが、やはり医師にすぐに診てもらえることは安心感がある。比較的早く、さらにアポなしでも病院で診てもらえる日本の医療制度は恵まれているとも言えるかもしれない。
記事内の引用について
「Physicians (per 1,000 people)」(World Bank Open Data)より
https://data.worldbank.org/indicator/SH.MED.PHYS.ZS