マリノス買収に動いているのは、マカオを中心にIR(カジノを含む統合型リゾート)施設を展開する「メルコリゾーツ&エンターテインメント」社。同社のCEOを務めるローレンス・ホー氏は、「マカオのカジノ王」スタンレー・ホー氏の息子で、アメリカの統合型リゾート運営会社「ラスベガス・サンズ」を射落とす勢いの気鋭の経営者。狙いは「横浜へのカジノ誘致」にある。
「メディアが報道している通り、横浜市のカジノ誘致は、市民の反発が強く、難航しています。旗振り役の林文子横浜市長は12月4日から市民説明会を開始しましたが、いぜんギャンブル依存症や治安悪化を懸念する声は根強い」(大手紙社会部記者)
そこでアレルギー払拭の特効薬に期待したのが“マリノス人気”という構図なのだという。
「横浜でのIR招致ではサンズ社が先行していて、巻き返しを図るメルコ社は今年7月にマリノスとトップパートナー契約を締結。ユニホームの鎖骨部分に『MELCO』のロゴを貼り付け、スポンサー支援を開始しました。ゆくゆくはメーンスポンサーとなり、マリノスの選手を使って地元で無料イベントを開くなどの社会貢献を通じ、カジノ誘致の地元対策にしようと考えているのです」(同)
メルコ社は昨年4月に大阪にオフィスを開設。当初は大阪でのカジノ誘致を目指したが、今年9月18日に「日本国内のIR参入の候補地を横浜市に絞った」と方向転換を発表。大阪府と市に「事業参加の中止」を通達していた。
「より多くの儲けが期待できる横浜に乗り換えたのです。横浜のほうが東京都心ばかりか羽田空港に近く、外国人の誘客にも便利です。このシナリオを書いたと噂されるのが、あの大物政治家です」
そう声を潜めて話すのは、全国紙政治部記者。さらに続ける。
「カジノの統括は内閣府で、実質的に仕切るのが官房長官。メルコ社は日本のIR向けに少なくとも100億ドル(約1.1兆円)以上の投資を表明しており、ポスト安倍の有力候補とされる菅義偉氏が、将来の総裁選へ向けた軍資金作りに絵を描いたと…。日産も含め、横浜での影響力は絶大ですから」
この「横浜カジノ誘致計画」の中で、大きな役目を担うのが、Jリーグ発足前の日産自動車サッカー部時代から横浜市民に愛され続けてきたマリノス。そのチームを実質的に運営しているのは日産自動車ではなく、英プレミアリーグのマンチェスター・シティFCを運営する『シティ・フットボール・グループ(CFG)』だ。
リーマンショックで日産本体が赤字に転落したことで、「コストカッター」として知られるカルロス・ゴーン氏は、2009年からマリノスに対する年間10億円近い赤字補填を停止した。その一方、’14年7月からCFGと公式スポンサー契約を結び、年間100億円超と見られる広告料を支出。同時にCFGがマリノスへの第三者割当増資を引き受け、19・95%の大株主になった。
★菅官房長官に恩を売りつけ
実は、CFGへ支出した巨大な広告費の一部がマリノスに還元されていたという情報もある。ここにも、“ゴーン日産の闇”が潜んでいる。
「実際のマリノスのマネジメントは、’15年3月からCFGの日本法人『シティ・フットボール・ジャパン(CFJ)』が行ってきた経緯があり、同社とメルコ社が連合すれば、クラブの運営はいかようにもなる。Jリーグ規約では、国外企業が株式の過半数を取得することは禁じられているが、日本法人なら可能。『マンチェスター・シティ』に倣って『ヨコハマ・シティ』に名を変え、ユニホームの胸ロゴも『MELCO』に変えることが検討されている」(スポーツ紙デスク)
日産自動車は昨年11月のゴーン会長逮捕で企業イメージが悪化。今年4〜6月の営業利益はわずか16億円に急落していた。危機感を強めた同社は計1万2500人の人員削減を打ち出しているが、その前に企業スポーツを切り捨てるのはよくあるパターン。横浜の財界幹部が、この先のマリノスの展望を明かす。
「Jリーグ規則では1企業が2つのクラブを所有することが禁止されており、三菱自動車がルノー・日産グループの傘下に入った時点でマリノスと浦和レッズを所有する日産は、規約に抵触していた。その意味で、マリノス優勝を花道にメルコ社に売却するのは渡りに船。リストラ社員に申し訳も立つ。そして、何より“横浜カジノ”を推進する菅官房長官に恩が売れるのが大きいのではないか」
虎の子を手放し、カジノ誘致で再起を図る日産…。大博打が始まった。