まず夫の慎二(渡部篤郎)がダメ人間である。「やり直そう、何でもするから」と言いながら、妻が受け入れなければ切れてしまう。子どもの誘拐の警察への訴えを妻に一人で行かせている。会社では海外赴任の話が白紙になる。それも慕われていた部下・真下亜美(藤井美菜)に密告されたような描写になっている。
渡部篤郎はテレビドラマ『白夜行』ではヒモ的なクズ男・松浦勇を演じていた。映画『重力ピエロ』では病的で自己中心主義的な犯罪者・葛城由紀夫を演じた。『美しい隣人』では冒頭の優しいパパのメッキがはがれたダメ夫を好演している。
息子の駿も不気味である。タイトルの「零れたミルク」は直接的には駿が何度もコップに入れられた牛乳をこぼしてしまうことを指している。沙希は連れ去った駿に「ママは本当のママじゃない」と吹き込む。普通の子どもは「嘘だ」と反論しそうであるが、駿は「そうなの」と平常心で応じている。この息子の反応が絵里子(檀れい)の崩壊のトリガーになった。
一番の注目は妻の絵里子(檀れい)の崩壊である。穏やかで幸福そうな主婦が様変わりした。沙希への恐怖と怒りに常に支配され、慎二を激しく責め立てる。夫は許せないが、沙希の思うツボになりたくないとの意地から表面的には幸せな家族を演じ続ける。そして息子の言葉に発狂した絵里子は物凄い形相で醤油瓶を投げつけ、家を飛び出す。
これまで『美しい隣人』は仲間由紀恵のミステリアスな演技に支えられてきたと言っても過言ではない。ところが、その仲間の登場シーンは今回、減少してしまった。その穴を檀れいが見事に埋めた。「自分と絵里子が同じ」という沙希の言葉を裏付けるような壊れ方である。次回は遂に最終回「勝つ女」である。どちらが勝つのか、結末に目が離せない。
(林田力)