夏休みのデートの時、吉原君は、白い綿のシャツに、紺色のずぼんをはいてきてくれた。短い髪の毛も、整髪料で整えていた。女の子に積極的に話しかける男の子たちよりも、ぜんぜん、すてきに見えた。
でも、吉原君といっしょにいるときは、まだ、何をしゃべればいいのか、わからない。
吉原君も、よく下を向いたり、黙り込んだりしてしまう。けど、吉原君は、いつも私を気づかって、いろいろなことを話してくれる。さっきも、階段道で、「大丈夫」って、何度も聞いてくれた。
それに、吉原君は、私が何を言っても、私の心を感じ取ってしまう。
「ごめん、やっぱり、興味なさそうだね」
今も、すまなそうな顔をしてくれた。
吉原君のせいじゃないのに。今日は生理で体調が悪いだけなのに。
けど、「ごめん」って、あやまってくれた吉原君に、なんて言えばいいのかわからない。
吉原君に、崇徳院と西行の話の続きを聞いてみた。
「問答をして、それから、どうなったの」
吉原君が、一瞬、驚いた顔をした。けど、話してくれた。
「西行は崇徳院に成仏を願うんだけど、崇徳院は皇位を奪われたことを恨んでて、すでに魔道に身を染めてたんだ」
魔道って、悪魔の道のこと。
「…魔道」
つぶやいたら、ちょうど相づちを打った形になって、吉原君が、さっきよりも楽しそうな声で説明してくれた。
「うん。それで、崇徳院は西行の話に耳を貸さずに、手下の怪鳥を呼び集めるんだ。怪鳥に、『天下に大乱を起こせ』って、厳密に言うと『平家を滅ぼせ』ってことなんだけど、命令するんだ」
「…怪鳥」
「うん」
吉原君が鼻をかいた。どうしたのだろう。
(つづく/竹内みちまろ)