でも、隊長はそれでも動じない。この人も、なんだか、かっこいい。
吉原君が隊長をにらみつけている。隊長のマントが揺れた。
「そうはいかないな」
隊長は冷静だ。この人も強いのかも。
いきなり隊長に腕をつかまれた。私はそのまま隊長のマントの中に入れられてしまった。けど、隊長は私のことを見ていない。ずっと吉原君をにらみつけている。
隊長の腕に締め付けられて、私は顔を隊長の脇の下に押しつけられた。どうしよう。男の人の肌に触れたの、初めて。隊長の体、堅い。においもする。鼻の奥まで、隊長の汗が染みこんでくるみたい。けど、なんだか、ずっと嗅いでいたい。
隊長はもう片方の手で剣を抜いた。吉原君も、剣を構え直した。二人は戦うんだ。私を奪い合うために。
そのとき、地面に倒れていた野蛮な男が体を起こすのが見えた。吉原君の後ろにいた。野蛮な男は、吉原君へ短刀を投げた。それから、また地面に倒れた。
「くわ」
吉原君が片ひざをついた。吉原君の脇腹に短刀が刺さっている。痛そう。
隊長が笑った。
「美雪はもらっていくぞ」
隊長からも「美雪」って呼ばれた。男の人がみんな私のことを「美雪」って言う。そして、私を奪い合う。私、どうしたらよいのだろう。
吉原君が地面に倒れた。私は隊長にさらわれた。
ここはどこだろう? 私は寝ているみたい。体が動く。私は縛られていなかった。起きあがってみたら、ベッドの上だった。ベッドの周りが薄いレースのカーテンで覆われている。女王様の寝室みたい。
カーテンの外は暗くてよく見えなかった。火の粉があがる音がしている。ぼんやりと明るい所は、炎があるんだ。
ベッドから降りた。私は何も身につけていなかった。誰かに見られたら恥ずかしい。シーツを身にまとった。真っ白なシーツだった。おばあちゃんの家の浴衣の手触り。レースのカーテンを少し開けて、覗いてみた。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)