去る5月31日だった。横浜スタジアムでのDeNA対楽天戦、稲葉監督はDeNAのルーキー、東克樹(22)をこう評した。
「ボールに当たっても(グラウンドに)出てきて、打たれた後でも自分の投球ができる気持ちの強さがある」
2度も打球が足に直撃するアクシデントを乗り越えての好投だった。
そのガッツは称賛に値する。まして、東は左投手だ。ゲームメイクのできる左の先発は国際試合でも大きな武器になる。しかし、この稲葉監督のコメントだけでは説明不足なのだ。
「日米野球は日本国内で開催されますが、U−23は海外の球場で行われます。スタンドの雰囲気、外国人審判、練習施設、宿泊施設、食事、日本とは比べ物にならない劣悪な環境です。精神的に強くないと海外では本領を発揮できないと言いたかったんだと思います」(NPB関係者)
たしかに、稲葉監督の「ボールが当たっても」発言では、単なる根性論になってしまう。
「7月に大学生の日本代表がハーレム大会に参加します。オランダで開催される同大会は日程が長期間で、精神的にもタフな選手でないと務まりません。でも、考えようによってはこの大会に参加した大学生が東京五輪と、次のWBC(2021年)の主力メンバーになる可能性が高いんです。稲葉監督はアマチュアの視察に時間をもっと割くべき」(ベテラン記者)
前出のNPB関係者によれば、侍ジャパンの「最大の武器」はスコアラーだという。前回のWBCでもスコアラーは短期間で対戦国のデータを集め、それを分析している。一部球団から派遣をお願いしたスコアラーが奮闘したのだが、PCや映像解析に頼らず、独自の目線で見つけた「クセ」や「配球の傾向」をまとめ上げる力はメジャーリーグのアナリストにも劣らないと自負していた。
ならば、侍ジャパンもスコアラーを専属雇用し、ここにメジャーリーグ球団のようなアナリストを加えれば良いと思うのだが、そうもいかないという。人件費が足らないそうだ。
「侍ジャパンの常設が決まり、開幕前に海外チームと試合をしています。その対戦チームの渡航費を含めたギャラ、球場を抑え、その準備に要する費用が掛かって…。侍ジャパンはNPBの新しい収入源にするつもりでしたが、安定するまでもっと時間が掛かりそう。WBCという4年に一度、それも1か月弱の大会のために専門スコアラーを雇うのは、先の先」(前出・関係者)
選手個人の力に頼る部分が大きいというわけだ。ならば、プロ野球よりも次世代を担う学生の大会を視察する時間をもっと割くべきだろう。
「U−23はクライマックスシリーズ、日本シリーズと日程が被るため、どの球団も23歳以下の主力選手の派遣に難色を示しています。11月の日米野球にしても、稲葉監督がめぼしい若手選手名を挙げると、Aクラス入りが濃厚なチームの首脳陣は即答を避けます。選手の疲労、故障など万が一のことがあると…」(球界関係者)
お客を呼べるトップ選手が集まらないとなれば、ファンの関心も高まらない。12球団は全面協力を口にしていたが、実際は違うようだ。
稲葉監督の視察は、お目当ての選手を探すのではなく、「派遣を承諾してもらうための地均し」なのかもしれない。NPBは国際試合が開催される日程について協議していかなければ、侍ジャパンを魅力的なチームに成長させることはできないだろう。(スポーツライター・飯山満)