嶽本さんは乙女やロリィタにホラーやパンクといった、廃退かつ耽美的な作風で知られる。2000年のデビュー小説集『ミシン』(小学館)の収録作『世界の終わりという名の雑貨店』や『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』が映画化するなどヒット作も多い。2003年と2004年には三島賞候補になったが、もともと新人賞経由でデビューしていないこともあって、一度も文学賞を受賞していない。だから賞がほしくてたまらないらしいのだ。
それにしてもこの騒動は、結果的に宣伝になってやしないだろうか?
むろん逆効果になる可能性も大いに考えられるが、発売前から叩かれていた水嶋ヒロさんのデビュー小説『KAGEROU』だって、結局はベストセラーになった。読者が作家に求めるものは、必ずしも文章力や構成力ばかりではなく、作者の狂気性を喜ぶ節もある。
獄本さんは2007年に大麻所持の現行犯で逮捕され、2008年の復帰作『タイマ』では逮捕経験を交えた私小説風の内容が話題を呼んだが、そこに反省の色が見えないとして批判的に受け取る読者も多かった。けれどもファンに支えられて順調に著書を増やし、昨年11月には執行猶予期間を満了。
逮捕歴といえば、1月17日に発表された第136回芥川賞受賞者の西村賢太さんも、親子二代に渡る逮捕歴が話題になった。「作者の人物像と作品の良し悪しは別だ」という見方もあるにせよ、彼が私小説作家である以上、無関係とは言い切れない。
職業作家ではないが、1月26日に発売された市橋達也被告の手記『逮捕されるまで〜空白の2年7カ月の記録』(幻冬舎)も予約ランキングなどを見る限り、かなり売れているようだ。殺人者の本が売れることに比べれば、獄本さんのわがままなど大したことではないようにも思える。
無頼派と呼ばれる人間性に問題のある作家は他にも沢山いたけれど、特にそれが顕著なのは太宰治だろう。太宰は心中未遂で結果的に相手を死なせているが、不起訴になった。それは罪がなかったからではなく、親が裏で手を回してくれたんだと、小説の形ではあるが告白している。最終的に太宰は心中で世を去っているから、今さらそれを断罪しようとは思わない。
それどころか今時の太宰ファンの多くは、おそらく殆ど彼の作品なんて読んでやしないのだ。映画やドラマ化された『人間失格』やら教科書の『走れメロス』くらいは知っているだろう。しかし太宰は多彩な作家であり、他にも多くの名作を残している。彼の死後に『お伽草紙』を読み、その余りの面白さに認識不足を詫びた、同時代の評論家もいたそうである。
豊崎さんや投票者からすれば、迷惑千万だろう。けれども支持率と人となりはセットに思える節もあり、今後も人気は衰えることがないようにも思う。とはいえ物書きであるからには、姑息な手段ではなく作品で勝負してもらいたいものである。果たして今度の新作『金脈』は、汚名を返上させるほど客を呼び込める「金脈」に値する出来なのだろうか。全てはそこにかかっている。(工藤伸一)
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豊崎由美ブログ「書評王の島」
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嶽本野ばら公式サイト
http://www.novala.quilala.jp/