上園は長いスランプに嵌まったままだが、潜在能力の高い投手である。環境を変えることで復調する可能性も高いが、今オフの星野楽天の補強はどうもパッとしない。今オフは「阪神時代のような大型・大量補強がある」と予想されていたはず。極端な言い方になるが、星野監督が優勝するときは、大型補強が背景にあった。しかし、大型補強に打って出られない事情も抱えているようだ。
「ウチの井坂、戸村、長谷部、それと川島と争ってもらう」(9日)
星野監督は上園獲得について聞かれ、そう答えていた。「何を争うのか」と言えば、ローテーションの3番手である。現星野構想では、先発投手は田中将大、塩見貴洋の2人だけ。3番手以降の先発投手は決まっていない。
最後に名前の上がった川島とは、永井故障と不振に喘ぐ川島亮(30=前ヤクルト)のこだ。上園、川島…。野村克也氏の『再生工場』みたいな補強ぶりである。
「永井もいるし、状況によってはセットアッパーの青山をコンバートする方法も浮上してくると思います。でも、海外FA権を行使した岩隈の穴は埋まっていません」(プロ野球解説者の1人)
新人の武藤好貴(24=JR北海道)も使ってくるだろう。しかし、来季の先発投手陣には不安要素が多すぎる。なのに、大型補強に打って出ないのは何故か−−。一時期はヤンキースとの5年契約が満了した井川慶(32)、阪神を自由契約になった下柳剛(43)の獲得が『濃厚』と伝えられたが、進展は全くない。下柳に関しては「千葉ロッテが巻き返してきた」との情報もあるだけに、目減りした現有戦力のままキャンプに突入する可能性も出てきた。
オフといえば、星野監督の独壇場だった。その星野監督が動けない理由は、主に2つ。
「阪神時代と比較するのが間違いないんです。そもそも、阪神監督を引き受けたのは、その年のドラフト会議後でした(01年オフ)。中日監督を退任してすぐの横滑りでしたし、戦力補強に関する話し合いもできないまま、キャンプに突入したようなものでした。翌年オフに20余人の選手を入れ代えることが許されたのは、チーム構想を話し合う時間がなかった『貸し』があったからで、今回の楽天監督就任とは背景が全く違います」(前出・同)
確かに、楽天フロントは星野監督の意向に沿って、外国人投手、松井稼頭央、岩村明憲らを獲得した。阪神監督を引き受けたときと違い、戦力構想を話し合う時間が十分にあった証拠でもある。また、2つ目の指摘が意味シンだ…。
「昨年オフ、岩隈とアスレチックスの交渉が決裂しましたからね。楽天フロントが落札金を見越していなかったと言えばウソになります。今オフは海外FA権を行使しての米挑戦なので、楽天には1円も見返りがありません」(球界関係者)
下柳の推定年俸は9000万円。井川の400万ドル(約3億円)は例外だとしても、高額年俸選手は極端なダウン提示を嫌う。次年度の税金で苦労するからであり、それなりの金額は保障してもらいたいというのがホンネだろう。岩隈資金を撮り損ねた今の楽天には、補強にまわす軍資金がないのだ。
「今後、外国人選手を獲ると思われますが、球界の戦力分布図を変えるような大型補強は見込めないと思います」(前出・プロ野球解説者)
言い方を換えれば、来季の星野監督は『采配』で勝負しなければならない。指揮官として全てが試される1年になるだろう。