もっと、キスしてほしい。
長く、抱き締めてほしい。
体じゅうが熱い。掛け布団をはいだ。
冷たい空気が、体を触っていく。脇腹から、脇の下、おへそ、太ももまで。
すーっとする。体を動かせない。目が開けられない。でも、気持ちいい。
何かが体の中に入ってくる。
蚊帳がろうそくの明かりに照らされている。
お姫様の床から、怪鳥が浮かび上がる。
鬼瓦が横目で見ている。
私の体のそばに怪鳥がうずくまっている。怪鳥が布団から出て行く。空へ飛んでいった。
翌朝に起きると、体じゅうに汗をかいていた。掛け布団も乱れている。シーツがびっしょりだ。
体がだるい。起き上がる気になれない。このまま横になっていたい。
ほほが、じんわりとしている。関節もきしむ。お腹の調子も悪い。寝返りをうった。掛け軸が見えた。
そうだ。ここは、おばあちゃんの家だ。障子のすき間から、朝日が差し込んでいた。台風はまだ来ていないみたい。部屋の中は、家具が何もなかった。床の間に花が一輪、活けてある。
体を起こした。浴衣の帯がほどけていた。下着も外れている。なんでだろう。このところ下着がきつくて、生理が来るとうっとうしくなるけど、寝ている間に外したことはなかった。でも、朝の空気が気持ちいい。
風が舞い込んできた。においが鼻をついた。脇の下から体臭が出ていた。
もの音がした。障子の向こうに誰かいる。
浴衣を整えて、蚊帳から出た。障子の溝をまたぐと、廊下に、健太君が立っていた。
健太君は、すました顔で私を見つめてきた。健太君の髪の毛が乱れている。おでこと、のどに汗が垂れている。健太君の寝間着もびっしょりだ。
健太君の髪の毛を整えてあげた。健太君のぬるい汗で指先がしめってきた。健太君からも、体臭がしている。寝苦しい夜だったみたい。
「健ちゃん、おはよう」
あいさつをしたら、健太君は、私の胸もとへ目を向けた。それから、何も言わずに、母屋へ駆けていった。
いい風。
体じゅうが覚まされる。それに、朝日が気持ちいい。
庭の草花も朝露で光っている。脇を見ると、屋根の先っぽで、鬼瓦が青空を見上げている。これなら、あやかしたちも、どこかへ飛び去ってしまうだろう。
けど、陽光がまぶしくて、私は、お天道さまには顔向けができない。(了)
(文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)