珍味の三点盛りが品書きにあって、注文すると、うるかが白い。なぜ白いのかと蝶ネクタイのおにいさんに訊(たず)ねると、「お客さんがおっしゃる『黒いの』は苦(にが)うるかといって鮎の内臓を塩辛にしたもの。これは身うるかだから白いのです。子うるかというものも(東武デパートの食料品売り場には)あります」ということだった。京の祇園ではいまでも、うるかを食べていると汗で衣裳を汚さないと、珍重されている。
切子のグラスが60mlで3銘柄飲めば1合だ。流行のシステムの、ここは草分け。デパート開店の午前10時から21時(日曜は20時)まで営業。10席足らずのカウンターなので、椅子の争奪戦は激しい。狙い目どきをうかがうと、ランチ終了時の3時ころでしょうか、というお返事を賜った。デパートなので対応がなにかと丁寧。
わたしの理想とする居酒屋珍味の三点盛りは苦うるか、ばくらい、あけがらし。あけがらしをご存知でしょうか。羽前長井之庄(山形県長井市)の創業寛政元年の山一醤油に伝わる、一族の婚姻などめでたい時にしか仕込まない門外不出の食べ物。八代目大和屋弥助氏による命名の由来はこうだ。
「故七代目が学生時代、東京の寄宿舎にて同室であった谷川徹三氏(作家、哲学者にして谷川俊太郎氏の父)と共に部屋で田舎から送られた伝来の芥子糀(からしこうじ)で酒盛りをしておりました。その時、谷川氏が盃を片手に『落語にも明烏(あけがらす)てぇ噺(はなし)があるし、(中略)メデテー芥子ってことで【あけ(明と開をかけて)がらし(芥子)ってなあどうだ】』(栞より)というのに、七代目である自分の父がはたと膝を打った」のであると。
糀が生きているあけがらしは、瓶詰めから2カ月までを爽味期、3〜6カ月までを熟味期と名づけ、それぞれの風味をご賞味いただきたいと、瓶の上掛け紙に赤い字で念押しするほど自信満々。
本日、豆皿で突き出しとして供された富山の辛味噌が、あけがらしとかなり近似値の味わいだったので、研究熱心なこの店などには近々、登場するやに思う。選りすぐった自慢の日本酒と、それに負けることのないつまみを擁して好き者をお待ちする、侮るべからざる“デパ地下居酒屋”です。
予算2000円
東京都豊島区西池袋 東武百貨店池袋店プラザ館B1F ワイン売場横