しかし、キャンプ序盤を見る限り、その黄金ルーキーは戸惑っているばかりだった−−。
2月1日(キャンプ初日)、『投手・練習メニュー』から野手組の『投内連携プレー』に駆けつけたが、間に合わなかった。次の『内野ノック』でも、どのポジションに入っていいのか分からず、二軍監督から一喝。
同3日、初のブルペン入り。午後、フリー打撃も行ったが、午前中の『投手・練習メニュー』に疲れたのか、柵越えは1本…。
同5日、内野のサインプレーに遊撃手として参加。サインを完全に覚えていないのか、投手が牽制球を放るタイミングが分からず、ベテラン金子誠が直接指導。
日本ハムはメジャー志望の強かった大谷を説得する際、韓国の高校球児が自国プロ組織を経ず、メジャー挑戦し(マイナー・ルーキーリーグ)、失敗したデータ表も提示している。だが、メジャーリーグの新人教育システムは“煩雑”で、日本プロ野球よりも劣るものなのだろうか…。その関係者や米マイナー球界を経験したプロ野球OBたちの証言をもとに、検証してみた。
まず、メジャースカウトが重視するのは『身体能力』だという。この点においては日米ともに変わらないが、日本球界よりも「優れている」と思われるのは、入団1年目の選手との関わり方だ。
たとえば、ドジャースなど西海岸の球団では、新人選手の体力測定後、個々の『コンディショニング・プログラム』が作成されている。『強化ポイント』を明確にするためだ。
「新人選手が一律に同じ練習メニューを行うとは限りません。何よりも大切なのは、コーチスタッフが選手個々の情報を共有することです」(元メジャースタッフ)
『情報の共有化』とは、1人の選手に対し、各担当コーチが違うことを教えるのを防ぐためだという。当り前の話だが、日本球界ではこの弊害は完全に解消されていない。「在京球団の大砲候補・Tは、コーチが別のことを教えている。コーチが入れ代わる度に指導内容も微妙に変わっており、彼が伸び悩んでいるのはそのせいではないか」なんて声が今も聞かれるくらいだ。
「ブレーブスには『プレイヤー・ディベロップメント』なる役職があります。そのフロント職員が育成の統括責任者となり、各コーチから送られてくる映像や数値表をもとに、選手の成長の度合いを確かめています。選手が伸び悩んでいる場合は、担当コーチの引責はもちろん、ファームスタッフ全体の指導力が問われます」(前出・同)
情報の共有化が強く主張されるということは、言い換えれば、育成システムがより細分化しているのだろう。
近年、日本球界でも『巡回コーチ』なる肩書が定着してきた。一、二軍の枠を越えて指導に当たる意味合いは日米ともに変わらないが、メジャーリーグでは、たとえば打撃指導なら、ルーキーリーグから3Aまでその担当コーチを統括する意味合いが強い。『プレイヤー・ディベロップメント』職を置くブレーブスに倣うメジャー球団も増えているという。「コーチによって教える内容が異なる」事態を防ぐため、現場コーチ、フロントで二重の保険を掛けているわけだ。
日本のプロ野球関係者は「指導内容の一貫なんて、当然!」と反論するだろう。しかし、『プレイヤー・ディベロップメント』を置くことで、米球界には「球団内の馴れ合い」がない。『緊張感』と『責任の大きさ』を現場コーチにも自覚させている。メンタルトレーニングも、走攻守の技術指導と同じくらい重点を置いているのも、メジャーリーグの特徴かもしれない。(以下・後編/スポーツライター・飯山満)