「阪神の開幕第2節はヤクルト戦ですよ。それも、神宮球場で。慶応大卒の伊藤をお披露目も兼ね、もうちょっと我慢して使うと思ったんですが…」
東京六大学野球の関係者は、伊藤の凱旋が叶わなかったことを悔やんでいた。
その伊藤の降格と同時に伝えられたのが、左太股痛で『二軍スタート』となったマートンの合流だ。和田豊監督(49)が早々に入れ換えを決断した理由は、打線低迷に尽きる。横浜DeNAとの開幕3連戦を終えた時点での『チーム打率』は1割8分1厘。和田監督の「このままズルズルと行くよりは…」なる判断は間違っていない。だが、今季の得点能力のダウンは覚悟していたともいう。
キャンプ中盤時点だが、チーム関係者はこう語っていた。
「今季は城島をスタメンから外す試合が増えると思う。一昨年オフにメスを入れた左ヒザに負担を掛けないため、今季は主に一塁手としての出場になる。でも、一塁にはブラゼルがいる…。この2人が揃って打線にいるのと、どちらか一方をベンチスタートに落とすのとでは、打線の破壊力も相手投手に与えるプレッシャーも違ってくる」
今季は、『正捕手』に藤井彰人(35)を据える布陣となった。“守備の人”と言っていい藤井が、日米通算244本塁打の城島と入れ代わるのである。得点能力のダウンを補う“他ポジションのスタメン候補”として期待されたのが、柴田講平(25)、大和(24)、そして伊藤を加えた若い外野手たちだった。
伊藤の再スタートに期待したいが、開幕3試合目に『スタメンマスク』を被った小宮山慎二(26)を見て、近年、阪神が抱えてきた『難題』を再認識させられた。若い捕手が育っていない−−。ここに、『生え抜き』という言葉を加えるならば、打線の中核を任せられる長距離バッターも頭角を現していない。
小宮山は昨季、「背番号39」を継承した。矢野燿大氏が背負っていた番号である。その後継者としての期待は小宮山も十分に分かっているはずだが、開幕3試合目のリードを見る限り、経験不足は否めなかった。
ちょっと乱暴な比較だが、同日、ライバル球団の巨人は「杉内俊哉と阿部慎之助」のバッテリーで、今季初勝利をおさめた。杉内は移籍初登板の緊張と重圧で本調子ではなかった。しかし、それを2失点で留めたのは阿部のリードである。杉内はソフトバンク時代から山崎勝己とのバッテリーを好んできた。それは細川亨という経験豊富な捕手が加入しても変わらなかった。巨人に入って「気の合う捕手」と巡り逢えるかどうかも懸念されていたが、阿部は本調子ではない杉内を勝利投手に導いてみせた。阿部はシドニー五輪、北京五輪、09年WBCで杉内のボールを受けてきた。その『経験』が、同日のリードに繋がったとも言える。
捕手というポジションは、『経験』を積ませる目的だけでは選手起用させられない。その点においては、和田監督が開幕3試合目で小宮山をスタメン起用させたのは勇気のいる決断であり、もっと評価されてもいいのではないだろうか。正捕手・藤井に万一があった場合の今季だけではなく、来年以降を見据えたチームビジョンである。
チームビジョンと言えば、巨人の第3戦目が気になった。逆転に成功した4回裏、一死一、三塁で『8番二塁・寺内(崇幸=28)』が併殺打に倒れた。
阿部、村田修一の連続安打、小笠原道大の会心の一打が出た直後だった。ビッグイニングを作れなかったことが問題なのではない。『8番バッター』の寺内でこのイニングの攻撃が終われば、次の5回裏は『9番・杉内』からの攻撃になる。実質、一死走者ナシで『1番・坂本』が打席に立つことになる。4番・阿部、5番・村田に連続安打が出て「1点」しか入らないのはお寒い限りだが、9番打者をイニングの先頭バッターにさせてしまう大雑把な攻撃を見せられると、指揮官の危機意識の差を感じてしまう。阪神はまだ結果こそ出ていないが、和田監督は昨秋キャンプ時からバントゲームをやるなどして僅差の試合に備えてきた。原辰徳監督(53)は選手を信頼しすぎるのか、「犠打、走者を進める実戦的練習メニュー」に時間を割いていなかった。
今季、今のところ、巨人のスタメン二塁手は寺内が務めている。昨季、盗塁王のタイトルも獲った藤村大介(22)がベンチスタートになったのは、ちょっと意外である。考えてみれば、近年の巨人は正二塁手が育っていない。今季、寺内と藤村が競わせ、正二塁手を決めようとしているのかもしれない。
重要ポジションを託せる生え抜きの選手が育っていない…。両球団の弱点が開幕3連戦で露呈されたようである。(スポーツライター・飯山満)