「本塁打量産の野球に疑問を呈する声が、ファンからも出ていましたからね。来季、本塁打は減ると思います。だけど、それが特定チームの敗因に直結することは絶対にない」(連盟職員の1人)
“低反発・統一ボール”の導入が決まったのは、加藤良三コミッショナーの後押しが大きかったという。現在、プロ野球公式戦では4社が試合球として公認を受けているが、「ばらつきがあるのは宜しくない」とし、今回に至ったわけだ。
各メディアは低反発・統一ボールの導入で、原巨人など『打撃優先のチーム』の懸念材料ばかりを挙げていたが、現場の反応は全く違った。「内野守備に及ぼす影響の方が大きい」と言う。
「ボールの反発力が弱まれば、内野ゴロの処理が難しくなります。三遊間に失速しながら転がっていくゴロが増えるでしょう。それに、バント処理も大変になります。外野フェンスにぶつかってボールがその場で止まるような打球も想定されるし、守備に及ぼす影響の方が大きい」(在京球団職員)
守備に対する不安を挙げる関係者はかなり多かった。
あまり知られていないが、プロ野球各チームが本拠地にしている球場の人工芝は四半世紀前とは比較にならないほど“品質が高い”。約10年前、東京ドームの人工芝が張り替えられた際、「天然芝に近い打球のバウンド」が話題になったが、その後もさらに進化した人工芝に張り替えられており、他球場も、天然芝とほとんど変わらないものが使われている。
守備コーチの経験を持つプロ野球OBの解説者がこう言う。
「巨人の守備を例に上げると、坂本(勇人)は緩いゴロでも前進して捕り、スナップスローで一塁送球しています。二岡(智宏)が守っていた時代は、前進しないで肩の強さでアウトにしていました。これからは坂本のように、前進する守備にスピード感のない選手は手痛い目に遭う」
外野守備も同様だ。外野手の間を抜く打球を転がしたとしても、低反発球ではフェンスにぶつかっても跳ね返って来ないかもしれない。その意味では、左翼のラミレスはともかく、俊足強肩の外野手を多く持つ巨人を利する結果になるのではないだろうか。
「1メートル分の飛距離が落ちるとは聞いたけど、ならば、投手は低反発球によって高めの直球を勝負球で使えるようになるのかな? 来年のオープン戦でテストしてみて、本当に高めの直球を使えると分かれば、速球派投手は有利になると思う」(関係者)
来季より導入される低反発性の統一ボールを製作するのは、ミズノ社だ。今季、真弓阪神は試合球を同社のものに変更している。同社の現・試合球は品質が高く、「飛ぶボール」とも称されているが、昨季144試合でチーム本塁打83本だった阪神打線は、すでに133本(108試合時点)を放っている。数字上で言えば、「飛ぶボール」の利点をもっとも生かしたのは、阪神である。昨季とスタメン選手が入れ代わっているため、一概には言い切れないが、阪神首脳陣は投手力の整備を急がなければならない。
「いや、東京ドームはもっとも本塁打が多く生まれる球場です。巨人打線が受ける影響は決して小さくない」(前出・プロ野球解説者)
在阪球団スコアラーのニュアンスは、微妙に違う。
「巨人のなかで、ホームラン狙いで打席に入るバッターはいないんじゃないかな。今季のラミレスだけは狙っている感もありますが、もともとはリーグ最多安打2回のアベレージヒッターですからね。小笠原、阿部もフルスイングの結果がホームランになったという打席の方が多いし、どの球団もホームランは減るかもしれないが、今までスタンドに入っていた左中間、右中間の打球を処理することになるので、足の速い外野手を持たないチームはキツイと思う。低反発球によって、守備負担が増えることになる」
ホームラン量産の野球より、ファンは機動力を駆使したスピード野球を好む。その意味では野球人気の回復も望めるのかもしれない。
新・統一ボールに対する解釈はさまざまだが、「やってみなければ分からない」というのが、正直な心証のようだ。各チームとも、サンプルの発注は終えたというが…。