『戦略室』とは清武英利・前GMの一存で新設されたセクションだ。しかし、その『戦略室』を立ち上げた直後に、清武氏が巨人を退団。構想そのものを白紙に戻そうとする動きもあったが、担当する橋上秀樹、秦真司両コーチを招聘した後でもあり、「とりあえずやらせてみよう」ということになり、今日に至っている。
一部では、その戦略室のデータが巨人打線から「思い切りの良さを喪失させた」とも伝えていた。
橋上、秦両コーチはID野球の野村克也氏の教え子である。戦略室を設けた背景には『野村式データ解析』のノウハウが欲しかったからだが、改めて調べ直してみた。今季、ヤクルト出身のコーチはどれくらいいるのか−−。阪神、楽天でその薫陶を受けたコーチは何人いるのだろうか。
スワローズ球団を除く11球団中、『野村ヤクルト』で現役生活を送った監督、コーチは数える程度しかいない(二軍首脳陣は除く/以下同)。日本ハム・栗山英樹監督、吉井理人コーチ、三木肇コーチ、西武・渡辺久信監督、先の橋上、秦両コーチといったところで、阪神、楽天時代の野村監督を知る監督、コーチも数人…。野村監督の教え子が球界を席巻しているわけではなかった。
しかし、巨人においては二軍にも田畑一也、荒井幸雄、野村克則といった『野村ヤクルトOB』もいる。河本育之・二軍投手コーチも野村監督の下で指導者経験を積んでいる。ヤクルト出身者がもっとも多い。
「野村監督と関わりのなかったチームも、著書などから研究し、ID野球を取り入れてきました。ヤクルト出身のコーチの人数ではなく、どの球団も多かれ少なかれ、野村監督の野球に今も影響を受けているのは事実です」(プロ野球OBの1人)
昨今では落合博満・前中日監督の野球が注目されているという。僅差の接戦を逃げ切るゲーム展開と、好機に点を入れる高い確率性が研究されているそうだが、落合監督はベンチから細かなサインを出していたわけではない。そういうチーム構成をし、あとは選手に託すというやり方だった。
ボビー・バレンタイン監督のいたころの千葉ロッテには『統計アナリスト』がいた。データ解析や対戦投手との相性を数値化し、それをもとにスタメンを決めていた。当時、日替わり打線だったのはそのためである。
野球の戦略も進化しているのは間違いないが、そのスタイルが現有戦力にマッチするとは限らない。原監督と巨人フロントが見習うべきは、一喜一憂しない落合監督の度胸ではないだろうか。(一部敬称略/スポーツライター・飯山満)