K子さんがかつて通っていた高校は、古い墓地を壊した後に建てられた。
そのような場所であるから、校庭を掘れば未だに人骨や墓片が出てきたり、さ迷う骸骨、飛び交う人魂、幽霊を見た…などなど奇妙な噂が絶えず、奇怪な現象は頻繁に起こっていた。
それは体育の時間だった。
「その日、体調の良くなかった私は、校庭の隅で体育の授業を見学していました。クラスの皆は軽く準備体操した後、ランニングを始めました」
K子さんは、校庭を走るクラスの皆を眺めていた。しばらくすると、その背後に小さなドッジボールぐらいの黒い塊が現われた。
「それが一体何なのかわからないんです。ただ、その黒い塊はモヤモヤしながらみるみる大きくなっていきました」
やがて肥大した黒い塊は、巨大なナメクジのような姿になり、大きな口を開けて、走る生徒一団を飲みこもうとした。
危機を感じたK子さんが皆に向かって逃げるように叫んだ。すると走っていた生徒たちも、背後に迫る不気味な黒い塊の存在に気付き、驚いて悲鳴をあげて一斉に逃げた。
しばらくの間、その黒い塊はアメーバのようにぐにゃぐにゃと変形運動を繰り返しながら校庭を這いずり回っていた。その様子をクラスの皆で驚きながら見ていたという。
「でも、不思議なことに、先生にだけは何も見えなかったらしいんです。それからも生徒たちの間では不思議な現象が起きましたが、私たちがいくら騒いでも学校側は取り合ってはくれませんでした」
だが。ある日ついに事件は起こってしまった。
「生徒が二階の窓から転落したんです。窓の外から何者かの手が伸びてきて、廊下を歩いている生徒の腕を引っ張ったんです。現場に居合わせた生徒がその手を目撃していました。幸いにも、下には工事中の盛り土があったため、落ちた生徒にケガはなかったんですけれど…」
学校側と保護者、さすがにこのままではいけないということになった。
「公立高校なので宗教色が強いものは本当はよくないんですが、学内に鳥居を建てました」
すると不思議なことに、怪奇現象はぴたりと止まったという。
(怪談作家 呪淋陀(じゅりんだ)山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou