きれいに飲みたいと思っているのは、私やあなただけではない。できればそうしたい、そうありたいと全世界の、全日本の左党が祈念していることだろう。毎日の飲む姿に、そこはかとない清潔感が溢(あふ)れていれば堂々たる人生になるのではないか。飲んでいる私の姿が他人に涼やかな印象を与えることに成功し、私もまた、どなたかの涼やかな気配をうなじに感じて振り返る。いいなあ、そうありたいなあ、どこだ、どこで飲めばいいのだ?
はい、ここです、浅七。酒を、冷たいのか、ひやか、お燗か、そういって注文します。つまみは、一人前ずつの分量で来ますのでそのように。座布団はこのぐらいが適当ですね。厚すぎて、立ち上がる際に斜めに滑るなんざあ、みっともなくていけねえや。さてと、ここからが本題です。べらんめえの江戸言葉はニセモノなんですって。
林家正蔵師匠のコラムによると「江戸言葉の粋(すい)を知るには、芥川龍之介の『鼠小僧次郎吉』と谷崎潤一郎の『お艶殺し』がよいお手本」で、「いわゆるべらんめえの江戸弁は、実は周辺の言葉がずいぶん入っていて、混じりけのない本来の江戸言葉は、実にうつくしいもの」だそうでございます。そんな江戸言葉を話せるようになったなら、披露するのは浅七が似合うなと帰りがけに、もう一度板間を振り返る。戸を閉(た)てたら凛(りん)と言った。
予算3000円
東京都江東区富丘1-5-15