自身が若年性乳がんに侵され、24歳という若さで絶命した中島千恵さん。
彼女が生前、同世代の女性に「乳がん」への正しい情報を伝えようと、自らの闘病生活を赤裸々に綴ったドキュメントです。
今作はTBS系の報道番組の取材を受け、その様子が克明に報じられたところ、大反響を呼んだ−−という側面もあり、彼女(中島千恵さん)の人生晩年、「今日生きている奇跡、幸せ」を世に訴えた衝撃の作品でもあります。
イベントコンパニオンの千恵は、ある展示会場で知り合った太郎と交際をスタート。交際前に乳癌との診断をされている千恵は中々切り出せない。言えない理由は、太郎の事が好きだから…。
しかし、髪が異常に抜けた千恵の異変に気付いた太郎は千恵に問いただすと、病気の事、胸を切除しなければならない事を太郎に告白。それを受けて、太郎は動揺を隠しながら、それでいて前向きに千恵に答えます。
太郎「それでも良い…一緒に頑張ろう」
しかし、千恵は太郎に別れを切り出します。
「癌がどういう物かわかってない…」
千恵から彼女が幼少の頃、母を癌で亡くしている事を聞かされた太郎は、絶句。千恵が放ったその言葉の重さに対して、何も反応する事が出来なかったのです。
そして太郎の前から立ち去った千恵はがんに侵された胸の除去を最終確認し、手術に踏み切るのです。無事、手術は成功し、退院。その後以前、太郎が話してくれた屋久島を訪れのです。
一方、太郎は千恵の父親に千恵の居所を聞こうと何度も彼女の実家まで足を運びます。が、千恵の父親は彼女の居場所を話そうとはしません。それでも太郎は諦めず、千恵の父親に食い下がり、彼女の居場所を聞き出そうとします…このやり取りが続き、とうとう父親が根負けし、以前、太郎が話した屋久島に千恵が行った事を教えたのです。
太郎は千恵を追いかけ屋久島へ…。
彼の強い気持ちが千恵に伝わったのか、太郎は現地で千恵との再会に成功。恋焦れた彼女との再会に、それそこ胸躍る太郎でしたが、女性の象徴を失った千恵は発する言葉もありません。
そこへ、心中複雑な千恵を見透かしたように太郎はこう語るのです。
「千恵は何も変わってないよ」
さらに−−。
「おっぱいがなくたって、千恵が千恵のままでいたらそれでいい」
太郎の真っ直ぐな愛情に心打たれた千恵は太郎の気持ちを素直に受け取ったのです。
しかし、現実とは残酷なもので、女性の象徴を除去して、消滅したハズのがんが千恵を再び襲ったのです。しかも、再発したがんは進行が早く、彼女の運命をも飲み込んでしまったのです。
「余命一ヶ月」−−千恵は医師からそんな告知を受けてしまうのです。
その衝撃が冷めやらぬ中、動揺している彼女をしり目に太郎は、千恵を献身的に仕えます。そう、自らが発した言葉そのままに…。
二人は限られた時をともに精一杯生き抜きます。特に、太郎は自らの発した言葉通り変わらない愛情で千恵を最期まで、それそこ千恵と共に病室で寝食を共にするまで献身的な看病を見せるのでした。
太郎の純粋な「愛」に心打たれる千恵。「ただ好きだから…。ただ一緒に居たいから…」−−余生幾ばくも無い千恵にとっては太郎のシンプルであり、この上無く深い「愛」は、嬉しくもあり又、辛いものでもありました。
《ヒトは生まれた瞬間から「死」に向かう》
産声は「オギャー」で、ほぼ人類同じです。ですが、死に様は千差万別で皆、それぞれの思いを抱き逝去していきます。千恵も当然、その一人。彼女は「もっと太郎と居たかった…話したかった…料理を作りたかった」と思い夭逝しました。
「もっと、何かをしてあげたい。この人と為に力になりたい」
こんな事が思えるパートナーと出会った事こそが真の「幸せ」なのではないでしょうか。「無償の愛」と言う言葉が親子間でよく使われますが、男女間でも同様だと思います。それ=「無償の愛」こそが「真の幸福」であると僕は今作を通じて強く感じました。
今作のオープニングで中島千恵さん本人からのメッセージが紹介されました。
《皆さんに明日が来る事は奇跡です。ただ、それを知っているだけで日常は幸せな事で溢れているのです》
監督:廣木隆一 脚本:斉藤ひろし
主な出演者
中島千恵(榮倉奈々)
赤須太郎(瑛太)
中島貞(柄本明)
加代子(手塚理美)
花子(安田美佐子)
赤須敏郎(大杉漣)
岡田(津田寛治)
奥野(田口トモロウ)
<プロフィール>
西田隆維【にしだ たかゆき】 1977年4月26日生 180センチ 60.5キロ
陸上超距離選手として駒澤大→ エスビー食品→JALグランドサービスで活躍。駒大時代は4年連続「箱根駅伝」に出場、4年時の00年には9区で区間新を樹立。駒大初優勝に大きく貢献する。01年、別府大分毎日マラソンで優勝、同年開催された『エドモントン世界陸上』日本代表に選出される(結果は9位)。
09年2月、現役を引退、俳優に転向する。10年5月、舞台『夢二』(もじろう役)でデビュー。ランニングチーム『Air Run Tokyo』のコーチも務めている。