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奈良の神社話その十七 巨岩をたずさえ婿入りした神──山添村・岩尾神社

 奈良県北東端、大和高原の一角で三重県と境を接する山添村には、“磐座(いわくら)”をご神体とした神社が多い。中でも圧倒的な存在を見せつけるのが岩尾神社だ。

 四方を山々に囲まれた山添村。しかし、のどかな景観の下には縄文時代草創期(約1万2千年前)の遺跡が集中するなど、途方もない歴史が秘められている。磐座の存在も、そうした古代人たちの息づかいの名残といえるだろう。

 磐座とは神の鎮座するところ。社殿を有する現在の神社成立以前、人々は巨岩や大木に神を降ろし、祭を執り行っていた。古代では神は天から降り来たり、また天へと帰る存在だったのだ。そのような「神の依り代」のひとつが磐座。やがては石そのものをご神体として祭祀の対象とするようにもなっていく。

 岩尾神社は古代祭祀の姿を今に残す場といえるだろう。鬱蒼とした樹木の間に屹立するご神体は二つの巨岩。ご祭神は岩尾大神とされ、神が不在だったこの地に産土神をお招きしようと祈った村人たちに応えて、伊賀方面から婿入りされた神様だと伝えられる。

 このご神体、実は境内にある「長持石」や「鏡台石」といった他の石とともに婿入り道具なのだとか。石の表面には白い十字線が走るが、これは持ち運びの時にかけられた“たすき”の痕という。夏には「石売り行事」といって、子供たちが川原で拾ってきた石を参拝者が買い求めて供える祭が残るなど、石にまつわる話題はつきない。

 村内には他にも吉備津神社や六所神社など、巨岩をそのままご神体とする神社がいくつも鎮座する。のみならず山中には様々な伝承を持つ奇岩・巨岩がごろごろ。節電の夏は、涼とロマンを求めて山添村を訪ねてみるのも面白い。

※写真「拝殿背後に屹立するご神体」

(宮家美樹)

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