『トリコ』は、美食が価値の中心となったグルメ時代において、未知の食材を探求する美食屋トリコの冒険を描く作品である。少年漫画の王道である冒険やバトルにグルメという要素を加え、『ONE PIECE』と『NARUTO-ナルト-』に並ぶ『週刊少年ジャンプ』の三枚看板に成長した。
トリコは3373票を獲得し、2位のココの2256票を大きく引き離しての首位獲得である。人気投票では主人公よりもクールな脇役が上位になることがある。『幽遊白書』の飛影や『BLEACH-ブリーチ-』の日番谷冬獅朗が代表的である。しかし、脇役人気頼みの展開となると、主人公中心の物語が論理破綻してしまう。主人公が圧倒的な人気を誇ることは作品に安定感がある証拠である。
注目は小松の3位である。小松はトリコとコンビを組む料理人であるが、戦闘能力がなく、バトルでの見せ場がない。背が低く、ルックスも人気投票向きではない。『ついでにとんちんかん』の発山珍平や『銀魂』の志村新八のように出番が多い割には人気投票の順位が伸びないキャラクターのポジションに近い。
それにもかかわらず、小松が3位を獲得したことは、小松の役回りが作品中に確固としたものとして描けているということである。小松はトリコらのように猛獣を仕留めることはできないが、貴重な食材を見つけ出して調理できる。これは小松でしかできないことである。この38号に掲載された第154話でもトリコでは絶対に不可能な小松の活躍が描かれる。
人気投票は4位にゼブラ、5位にテリー、6位にサニーと主人公サイドのキャラクターが続く。悪役は7位のスタージュンが最上位であるが、票数は435票で6位の802票から引き離されている。主人公サイドが人気登場上位を占めることは、作品内の価値基準が明確に描かれていることを示している。
バトル漫画では魅力的な悪役に人気が集まることも多いが、基本的に悪役は主人公サイドに倒されれば終わりである。高い人気故に一度は倒された悪役が主人公の仲間として再登場することもあるが、それは悪役としての魅力は欠けたものになる。
今回の人気投票で目立たなかった存在が女性キャラである。唯一ランクインした女性キャラは10位の二代目メルクのみである。これはオカマであるウーメン梅田の8位よりも低い。しかも二代目メルクは女性であることを隠しており、ヒロインとして評価された訳ではない。ヒロイン候補としては、トリコに恋する鈴(リン)がいるが、男勝りな言動で、女性的魅力の描写は弱い。
王道的な少年漫画として安定感ある結果となった人気投票結果であったが、一方でヒロイン不足という特徴も浮き彫りになった。
(林田力)