土間からあがり、居間へ入ると、伯母さんはエプロンを外していた。
伯母さんは、やっぱり、胸が大きい。赤ちゃんだったころの健太君は、その大きな伯母さんの胸を、夢中で吸っていた。
伯母さんの胸は、健太君が吸いつくと、健太君の顔を覆ったまま押し上げられた。伯母さんの胸のつけ根が絞られ、皮膚が寄って小刻みなしわができていた。たわんだふくらみに青い血管が走っていた。
赤ちゃんだった健太君は、ピンク色の唇の周りも、ほっぺたも、つばでびちょびちょにしながら、伯母さんの胸を、夢中で吸っていた。
健太君は、今でも、伯母さんの胸を吸っているのかな。
もう、そんな年じゃないか。
伯母さんが聞いてくれた。
「美雪は、元気にしてる」
「はい」
「そうか。高校生活はどうだ」
私の高校生活は、どうなのだろう。吉原君が「いつも、つまらなそうにしてる」とつぶやいた時の表情が思い浮かんだ。
それから、初めてしてくれたキスも。
すぐに終わっちゃったけど、ちゃんと、上下の唇で、私の唇を覆ってくれた。あったかくて、吉原君の吐く息が鼻にかかった。
あと、一瞬だけ、濃いにおいがした。あれが、男の子の、におい。
伯母さんが、声をかけてきた。
「楽しそうだね」
えっ、どうして。なんで、わかるんだろう。
「どうしたんですか」
伯母さんが、笑いながら答えた。
「今、楽しそうな顔、してたよ」
そうなんだ、私、そんな楽しそうな顔をしてたんだ。
「はい、楽しくやってます」
男の子と、もっと、たくさんキスしたら、男の子のにおいをかぎながら、伯母さんの胸を吸っていたときの健太君みたいに、私の唇は、ほっぺたも、つばだらけになっちゃうのかな。
伯母さんが、また、うれしそうな顔をした。
「ほんと、楽しそうね」
伯母さんは、いつも、私のことを心配してくれる。
伯母さんが、声をかけてくれた。
「あと、お風呂は、健太は、土間でたらいにお湯を入れて、行水だけでもいんだけど…」
伯母さんが、続けて、聞いてくれた。
「美雪はどうする」
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)