search
とじる
トップ > トレンド > 連載ラノベ 夢ごこち(14)

連載ラノベ 夢ごこち(14)

 おばあちゃんの家のお風呂のことを考えただけで、なんだか、体がかゆくなってきた。裸になって、熱いお湯につかって、目をつぶりたい。

 また、入りたいな。
 でも、今日は体の調子が悪いし、生理の血で汚しちゃったら、嫌だ。

 「体をふくだけにしとく。来そうなんで」

 伯母さんが急に心配そうな顔になった。伯母さんは、体を近づけてきて、私の顔をのぞき込んでくれた。
 「大丈夫かい」

 伯母さんは、私の生理痛がひどいことを知っている。いつか、伯母さんが私の家に来たときに、わざわざ部屋で寝ている私の様子を見舞ってくれた。

 あれは中学二年のときだ。朝からお腹が締めつけられるようで、けど、無理をして学校に行った。

 朝礼が始まるまで、机に伏していた。仲のいいお友だちがみんな気がついて、周りに来て心配してくれた。
 お友だちに言葉を返し、顔を上げて教室の様子を眺めると、何人かの男の子が、私を見ていた。

 先生が教室に入ってきた。お友だちが私のことを先生に伝えてくれた。お友だちはそのまま保健室まで付き添ってくれた。

 教室から出るとき、男の子たちがみんな、私を見ていた。なんだか恥ずかしいような、くやしいような気持ちになって、涙が出ていた。
 生理で泣いたのは、あの時だけだ。

 「うん。大丈夫」
 伯母さんに答えてから、朝、駅舎から見上げたどんよりした空を思いだした。特に山の方が暗くて、灰色の雲が渦巻いていた。
 私の体の中でも、黒い血が渦巻いているのだろうか。

 伯母さんが、少し、ほっとした顔をした。
 「そうか。悪いね、そんなときに」
 伯母さんには、心配をかけてばかりだ。

 「いえ。ぜんぜん、へいきです」
 「何かあったら、お風呂場の前の戸棚に入ってるから。一番上の開き戸」
 この家は、生理用品は、あそこにあるんだ。

 「はい」
 でも、持ってきているから、借りることはないと思う。

 台所から土間をつたってお風呂場をのぞいた。湯船も、スノコも、記憶のままだった。入り口ののれんまで同じ模様で、テレビの宣伝でよく見る電気ジャーのダンボール箱があったけど、家は昔のままだ。

 柱が太くて黒光りしている。風が吹くとガラス戸がかたかた鳴る。天井が高くて、昔ながらの丈夫な家。

 ちょうど、今の健太君くらいの年までは、毎年、夏休みとお正月に、泊まっていた。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

関連記事


トレンド→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

トレンド→

もっと見る→

注目タグ